…………………いや、すっっっごい面白い。
単純な娯楽性はないけれど、娯楽と言えば娯楽に違いない。けれどこの作品をプレイし終わった後、ありがちな「楽しかった!」なんて言葉は出てこないはず。
そんな「面白い」。
ファーストプレイ後はあまりの情報量の多さと、気持ちの飽和状態と、その後にステスタ2とかいう某所のガセ情報に見事釣られてしまったのでまともな感想言えませんでしたが、今なら言える。
ネタバレはしたくないし、説明すると気持ちが風化してしまうような気がするし、何よりこのレビュー読んでやりたいなーと思った人のためにはネタばらししたくない。
ああけれど、絶対に二週以上は飛ばさず読んで、その上でこの作品について語ってほしい。一週目だと面白いも何も分からない状態だろうから、心の中できちんと整理しきってから言葉に出すべき。製作者の意図も読み取れず、また意図を自分から見出すこともできない状態で語る感想など、誰が感銘を受けるのだろう。
この「物語」についてあらゆる角度で描かれた作品は、言葉の持つ力の全てを使い切り、また言葉の魅力全てを完全に出し切った作品。
韻、歌、詩、美しい言葉、音声とテキストとの融合。言葉の汚さに隠れる心の美しさ、そしてそれに対する皮肉や、それを意識した対応。
言葉の意味を問い、言葉で遊び、言葉に振り回され、言葉を否定し、言葉に乱れ、言葉に縛られ、言葉に傷つき、言葉で甦り、言葉であらゆることを可能にする物語。
人は名作に出会えば言うだろう。「名作中の名作」と。それは主観客観共に何らかの比べる対象があった上で出てくる言葉だろうが、この作品はこの数多ある「エロゲー」の中で唯一無二であると断言しよう。この作品のテーマやイメージ、はたまたプロットなどが似通ったものは決して生まれず、また生まれてこなかったろう。それくらい特殊であり、それくらい完璧。
この作品のメインライターである星空めてお氏がこの作品の構成にどれだけの時間を費やしたかは知らないが、その後の作品である「SEVEN-BRIDGE」の息切れ感を見ると、この人は「Forest」のためだけにライアーに入ったんじゃなかろうかとすら思ってしまう。それくらいの時間とそれくらいの労力は、この作品の選択肢から少し逸れた横道を見て分かるはずだ。エンディングにまで向かう道はただの大通りに過ぎず、この作品の全体像を推し量るにはあまりにも贅沢な方法だったのだと。
キャラクターに萌えは必要なく、むしろそんな感情は物語を客観的に見るためには不要な要素となる。いや、もしかして萌えてもいいのかもしれない。けど、そんな呑気なことを言ってられるほどの余裕、この作品にあったろうか。この作品をプレイし終わった後は、彼らが好きになることは確実だけど、それもきっと「萌え」的なものではない。他人に友だちについて悪口を言われていやな気分になる、その友だちに対する愛情と同じものを、私は彼らに持っている。つまり、人として好きになる。
ついでに、作中に出てくるキャラクターは元ネタがあるものが多い。しかし、それに躊躇う必要はない。知っていれば尚面白い、というスパイス程度であって、メインになるものはほとんどないのだ。最低限の説明はされるし、元ネタと分離されるものとてある。さすがに、「不思議の国のアリス」や「ピーター・パン」を知らないとなるとそれはそれで問題だが。
この作品をプレイして、確実に楽しめる人は「一から物語を作ったことのある人間」。だからオリジナル作品を作った経験がある人であれば、どれだけ陳腐でも構わないし、恥じ入る必要はない。むしろ、幼い頃に必死になって自分だけの物語を創った経験があるほうが、余計心に響くかもしれない。
TRPGに似た要素も多い。弾き語りならぬ聞き語り、という形式が非常に多いため、彼らのアドリブ合戦にはなにやら懐かしさを感じ入る人もいるのでは。
物語を創り、また物語を愛し、物語を読み耽る人ならば、是非に三度はやってほしい。キャラにハマるんじゃない。物語に、ハマるために。
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