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これを小ネタとしていいのかどうかわからんけども:Minoritenとこの


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これを小ネタとしていいのかどうかわからんけども

 いつか言った年齢制限付きがやたら長くなったので全年齢対象版として投下。ここまで見たら脳内補完できるでしょー的な部分まで書いたと思うし!
 それから年齢考えてアグネス呼ぶの勘弁な!

 あとレガシーの不満と今後の改善点について書こうと思ったら某絵師に先越されてたよガッテム!
 しかしレガシーシステムで愛邪版出すなら今度こそ月に一度に一内政にしてもらいたいのう…。
 土下座、なる文化はネバーランド大陸では遥か東にある島国、ムロマチ独特のものだ。貴人に対する敬意、畏敬を示す動作であると同時に、深い謝罪を表すものでもある。客観的に見ても地べたに座り込み深々と平伏する姿勢は異質な動作で、された側は深い謝罪の気持ちを感じないことはないのだろう。それでも、現状は何も変わらなかった。
 現在、赤毛の白衣を着た青年が、深々と二人の男女に向かって件の『土下座』とやらをしていたが、やはり何も変化は起きなかった。
 少年少女と言った方がより適切だろうその二人は、片方は苦々しい笑みを浮かべ、もう片方は盛大な顰めっ面を作ったまま青年を睥睨している。
「本っっ当に、申し訳ありませんでした!!」
「それで済むか、阿呆」
 青年の誠心誠意の謝罪を、少年は無残に切り捨てる。しかしその反応も仕方ないと彼も理解しているのだろう。短い呻き声を漏らすと、頭を切り替えるように顔を上げ、ずれた眼鏡を指先で軽く持ち上げる。
「……流石に自分の失敗を、これだけで済まそうなんて思ってはいませんよ。大丈夫です、必ず元に戻します」
「そうして頂けるとありがたいのですが……どのくらい待てば宜しいのでしょう?」
 慎ましやかな、それでも困った顔を隠しもしない少女の問いかけに、青年は少し間を置いて、それでもはっきりと答えた。
「お二方がそうなった原因について、成分の時点から詳しく把握できていますから……」
「貴様がやらかしたことだからな」
「ぐ……」
 少年の鋭い茶々入れに、青年は律儀にも反応してしまう。全くもってその通りであるだけに、反論が浮かばないのが悲しいが、それさえもやる気に変えようと青年は握り拳を作る。
「来月までには確実に、お二方は元の姿に戻っているはずです。いや、戻っています。命は賭けられませんが、確実に戻します!」
「……はあ……」
「…………」
 力強い青年の宣言に対し、少女は曖昧に頷き、少年はそれもどうだか、と言いたげな視線を送るのみ。つまり二人はさほど期待していないらしい。彼はその反応に幾分か自尊心を傷付けられたが、彼らがそんな反応をするのも、元は自分の不手際が原因だ。致し方ないことと受け取り、ズボンを軽く手で払いながら立ち上がる。
「姫サンには僕から話を通しておきます。お二方は執務に支障が出る可能性……の他にも色々あると思うので、元に戻るまでは安静に……と言っていいのかな? 内政には関わらない方針でお願いします」
 青年の言葉に、少女が申し訳なさそうに畏まる。
「……ではその間、わたしたちは何をすればいいんでしょう?」
「休暇と思って、好きに過ごして下さい。なるべく人目につかないようにしてもらうのが前提ですけど……」
「一言目と矛盾しているが」
「…………すみません。けどとにかく、頼みます!」
 冷静な少年の指摘に、青年は頭を下げるしかない。だが訂正する余裕はないらしく、扉を開けるとそのまま君主の執務室の方へと走っていった。
 それを見送るしかない少年と少女は、青年の足音が聞こえなくなるまで待つと、共に大きく息を吐き出す。今の彼らにできることと言えば、それくらいしかなかった。

「―――うん?」
 そして青年が向かった先。焦った彼の説明を受けた、まだあどけなさの残る大魔王の後継者にしてネウガードの君主は、その長い長い説明を受けて首を傾げた。
「チク、もう一度説明しろ。今度は専門的な用語を使わず、噛み砕いた表現で頼む」
 彼女は部下の一人の随分な焦りようとは反対に、至極落ち着いた対応で自分の知識の及ばぬ箇所を相手に補足させようとする。ついでに、酷く忙しないこの部下が相手のことを考える程度に余裕を持つことを願っていた。
「えぇえ~……。さっきので十分わかりやすいはずでしょ、姫サン!?」
「いいや、全く」
 だがその意図に青年は気付かない。もう一度説明するより早く研究に取りかかりたいのだが、そうは言っても上司の承諾を得なければ、自分の研究も彼らの休暇も処理してもらえないことになる。それは困るから、文句を言いつつ一応は試みるのだが。
「……だからですね、僕が新兵器として開発中だった『魔力即滅弾』の……」
「何だ、その『魔力』なんとか弾とは」
「……名称でイメージ湧かないかな?」
「無理だ」
 あっさり言われて、青年は派手な身振りで自分の頭を抱え込む。
「あぁあ、もう! 姫サン、僕これから忙しくなるんだからちょっとは察してよ!」
 そうは言われても、彼女には青年の心境など知ったことではない。頭を抱えた部下の言葉に傲慢さを感じた彼女は、顰めっ面のまま昂然と告げた。
「忙しさで言うなら今のわたしも十分忙しいぞ。執務中だと言うのに、要領の得ない部下の話に付き合わねばならないんだからな」
「ちょっと、わからないからってその言い種は……!」
「まあまあ、二人とも落ち着け」
 君主の嫌味に青年が激昂しかけたところで、丸太のような太い腕が割って入った。その腕の持ち主は白い甲冑の筋骨逞しい騎士の姿をしていたが、騎士の割りに軽装で笑顔も人懐っこい印象を与える。今はその笑みも、少しばかり困っているようではあったが。
「チク、お前が随分急いでいるらしいのは理解できたが、言い替えるとそれ以外わからん。俺が姫サンの立場なら、やっぱり姫サンのような反応をすると思うぞ」
 やんわり言われて細身の青年は反射的に抗議しようと口の端をひくつかせるが、諦めたのか冷静になったのか、すぐさまがくりと項垂れた。
「……ザキフォンがそう言うなら、仕方ない、か」
「おい、なんだその言い草」
 彼らの上司が眉を思い切り顰めるが、それも無視して青年がずり下がった眼鏡を指で持ち上げる。
「初めから話すと……そうだな。僕が今さっきまで開発中だった新兵器は、対象の魔力を無効化して、事実上魔術が使えないようにする、という効果を狙ったものでした」
 最初からそう言えばいいものを、とぼやいた彼女は、いまだご立腹が消えない表情でその兵器に対する印象を呟いた。
「荒唐無稽だな」
「ええ、けどそのくらいじゃないと戦場で使えないでしょ? とりあえず目下の目的は、対象の魔力を一定期間不安定にさせることで……」
「そこまでは出来たのか?」
 騎士の問いかけに、青年はよくぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張る。
「その通り! まあネタばらしすると、魔力を故意に不安定化するガスの製造が偶然できたんで、そこから魔力消失に繋げたんだけどさ。そっちはなかなか難しくて……」
「それで?」
 自慢話はいらないとばかりに、君主はばっさり青年の話に割り込む。そうされると、さすがの青年も苦い笑顔を浮かべた。
「……それで、現段階ではその不安定な期間の長さ、効果の強さ、種族・属性を問わずに満遍なく効果が出るように色々やってたんだけど……」
「けど?」
 騎士の問いかけに、はは、と青年が笑う。誤魔化すような、空笑いめいたそれは、否応なく聞き役二人の不安を煽った。
「……強いのが、できたみたいなんだ」
 しかし次に青年が言った言葉は、彼らを拍子抜けさせた。知らず強ばっていた肩の力を抜いて、なんだそんなことかと笑う。否、その段階では笑えた。
「……人体に、影響が出るレベルの……」
「うん?」
「なに?」
 急に物騒な言葉を言われて、聞き返さない人間はいない。
 じわりと緊迫感を帯びた執務室の中で、それを引き起こした青年は唇を軽く舐めてから、重々しく口を開いた。
「……実験動物の時点では、前例と比べても大きな変化はなかったんだ。だから、はっきり言って油断していた。水溶液の形で処分せず、そのまま小窓とガス口を直結させて捨てちゃって……」
 説明は遠回しで、青年自身がはっきりと誰がどうなったか言い難いのがよくわかった。
 わかるからこそ、それがとんでもなく嫌な予感を煽り立て、二人は固唾を呑みながら続きを待つ。正確には、とっとと言えと尻を叩くのも奇妙に怖くて、そうやって次の言葉を待つしかできなかったのだが。
「……その風下に、偶然……リトル・スノー様とジャドウがいたみたいで……」
 名前を聞いた瞬間、青年の詳しい話を聞くまで玉座にもたれかかっていた魔王の後継者たる少女が猛然と立ち上がり、執務室のドアを掴みかからんばかりの勢いで開ける。
「姫サン!?」
 主不在の執務室に取り残された傭兵二人は、一瞬ぽかんとしてその背中を見送っていたが、我に返ると慌ててその後を追う。
「ああもうっ、勝手に行かないでよ姫サン!」
「ぼやいてないで、俺たちも早く!」
「わかってるよ!」
 その通り、彼女の向かう先は二人も嫌と言うほどわかっていた。しかし全速力で城内を走る大魔王の娘に、筋肉達磨の騎士と痩身の頭脳派青年が追いつくはずもない。
 当然瞬く間に差は開き、二人が息を荒げる頃、彼女の姿はもう彼らの視界から消えていた。


「スノー、いるか!?」
 ノックもなく、派手にドアを蹴り開ける。お付き二人のことなど頭からさっぱり消して辿り着いた彼女を待っていたのは、脳裏に浮かんだ衰弱している人間の親友の姿――ではなく、肩を覆う長さの髪を持つ思春期も半ばであろう城下町のそこいらにいそうな格好の少女だった。どうした訳か、のほほんとソファで本を読んでいる。
「……ヒロ。いくら自分のお城だからって、そうやって扉を開けるのは感心しないわ」
 少女はさも当たり前のように彼女にそう注意すると、再び本に視線を落とす。その手前の卓には軽食とお茶が一式並べられており、この少女が優雅に午後を楽しんでいたらしいのがよくわかる。
「……お前は……」
 誰だ、と言いかけた彼女は、その少女の美しい、溶けて消えそうな粉雪の如き銀髪に目を留める。それから真珠色のなめらかな肌、儚げでも凛々しさを感じさせる横顔、そして何とも喩え難い鮮やかな青い瞳に、まさかまさかと予感を高めていく。
 硬直した彼女をどう思ったのか、怪訝な顔をした少女がそちらを見る。と同時に、少女が腰掛けるソファの向かいのカウチソファから、むくりと誰かが起き上がった。
「何だ、騒々しい」
 その誰かは少年だった。青みがかった暗い銀髪を尖った耳から下まで短く刈り上げて、毒々しい月と同じ色の瞳を持つ、こちらもよく街で見るような平凡な服装の少年だった。少女よりは年上で、身体面での成長はある程度過ぎたのだろうが、全身が十分な筋肉を付けていないような未熟さが伺える。肌の色はくすんでいるものの、元の不健康そうな色合いと比べれば随分まともに見えた――しかし、それにしたって本当に。
「お前、変わってないな……」
 そう、彼女は『兄』に向かってしみじみと告げた。否、今もそう簡単に兄と認めた相手ではないし認めたくないので、『兄を自称する相手』と称した方がいいかもしれない。現在そんなことは些事ではあるが。
「……はん?」
 急にそんなことを言われた少年は訝しげに眉を顰める。その仕草は少年ではなく、男と呼ばれる人物にならよくよく見かけたものであったので、彼女はしみじみ息を吐いた。
「まあ、とりあえず……よくわかった」
「はい?」
 何の話か全くわかっていない少年と少女は、それぞれ首を傾げるが、それこそ彼女は知らない。そんな余裕などない。
 丁度そのとき、ようやく彼女の部下である傭兵二人が此処に辿り着いた。それぞれ息が上がっているが、それでも着いた途端にへたり込んだ者と軽く汗を掻く程度で個人差が出ている。
「ああもう姫サン、勝手に飛び出すの心臓にもすっごく悪い、二つの意味で!」
「その子たちは……もしかして、そうなのか?」
 そしてそれぞれ現状について反応を示し、上司の言葉を待つつもりだった。しかし。
「……ははは……」
 震えて棒立ちになった彼女から聞こえてきたのは、微かな笑い声だった。
 まさかの反応にぎょっとする二人と、現状にいまだついていけない二人の併せて四人が目を瞬く間、棒立ちになった彼女は――。
「ぶふ――――ッ!!!」
 爆発した。


「……それで、不安定化ガスが人体に影響を与えた場合、こうなっちゃったわけだ」
 青年が、今年一年の運気を一気に吐き出すような重い重い吐息をつきながらそう説明すると、騎士が戸惑ったように少年少女を見る。確かに、青年が言う二人の面影を持っていたが、それにしてもこの状態は不自然極まりない。
「こうって……これは幼くなる、と受け取っていいのか?」
「ひ、ひ、ひ……」
「うーん……。魔力が成長・安定する前、未熟で不安定な時期に体が変化した、と言った方がそれらしい説明になるんじゃないかな」
 青年の説明に、騎士ははあ、と彼にしては珍しいくらい曖昧な相槌を打つ。眼前の光景が衝撃的すぎて、頭が説明を譜面通りに受け入れることしかできないでいた。
「くっ……くくぷっ……」
「……だから、二人が幼くなるにしても微妙に年齢にばらつきがあるのか?」
 騎士の問いかけに、青年はふむと呟き少年を見る。元が年齢不詳だったが、それに比べても今の姿は明らかに若い。人間年齢に換算すれば、恐らくは十五から十七、と言ったところだろう。少女の方は元の体が十六歳のままとは聞いていたが、それよりも今の彼女は最低でも三つか四つは年齢が下がっている。それでも今の彼女が随分頼りなく幼く見えるのは、元の彼女が持つ雰囲気も多分に大きい。
「ううん……どうなんだろう……」
「ふひゃひゃ……」
 顎に手を置き長考の姿勢を取る青年に、少女はおずおずと口を開いた。
「わたしは……この年齢くらいの頃にはエイクスから過度の軍事力を抜いたような環境にいましたから、そもそも魔力の覚醒自体……」
「しかし、今の状態で以前のように魔術を使えるわけではあるまい」
 少年が吐息混じりで少女に訊くと、それまでに試したらしい少女は苦い顔で頷く。
「ええ……。でしたら、強引に魔力が不安定な状態にされた、と取るべきなのでしょうか」
「憶測に過ぎませんが、その可能性は高いと思います」
「ひっ、ひっ、ひぃい~」
「ちょっと姫サン、静かにしてよ!」
 流石に今まで無視してきたが不気味な笑い声が多少鬱陶しくなってきた青年に、笑い声の主が真面目に顔を合わせる一同を見る。
「あー……うん、すまなかったなお前たち。わたしは無視して続けてくれ」
 ひらひらと手を振りながら、まだ笑いを宿してソファに寝転ぶ彼女の発言に、そうですかと従う愚直な者はいない。ある者は深い深いため息を吐き、またある者は眉間の皺を寄せ不快感を露わにした。
「俺を笑いたいだけならとっとと余所に行け」
 端的に、彼女の笑いを引き起こす原因である自覚を持つ少年がそう告げるが、彼女は首を振ってそれを断る。
「そうはいかない。何せわたしはこの魔王城の城主であり、ここ新生魔王軍、そしてネウガードの主君でもある。このような緊急事態を見て見ぬ振りなどできようものか」
 饒舌に語っていながら、その口元はひくひくと笑いの発作を抑えきれないように引き攣っている。忌々しげに少年が舌打ちし、青年が幼い容姿の二人に申し訳なさそうな顔をするのは当然だった。
 そんな皆の反応を冷静に受け止めたらしい彼女は、大きな咳を一つすると、表情を普段のものに切り替える。
「ま、これでチクが焦る理由がよく分かった。わたしとしても、お前たちが内政に関われない状態になってしまったのは痛い。――チク」
 真剣な表情で呼ばれて、青年も目つきを真面目に切り替えて立ち上がる。
「はい」
「お前の要望通り、この二人について現状が解決するまで休暇扱いにしておく。しかし、こうなった原因であるお前の尻拭いまでは受け付けん。軍師としての政務も、この二人を元に戻すための研究も怠るな」
「……はい」
 少々落ち込んだように青年の肩が下がったが、その命令に対して理性的な反論は持っていないらしく、大人しく従った。彼女の方は部下の潔い態度に満足するよう軽く目を瞑ると、今度は幼い二人に視線を寄越す。
「お前たちは……このまま極力人目を避けて部屋で過ごしてもらう。長くかかりそうなら適当な離宮を宛がった方がいいだろうが……」
「そこまでの時間は掛けないつもりです。……最低でも、ガスの効果を打ち消すガスの完成は、一ヶ月かそのくらいを予定してますから」
「そうか」
 彼女は部下の言葉に頷き少年少女に、無言でその意思を問いかける。二人はそれぞれ、さして困ったふうでもなく互いを見た。
「特に問題はない」
「わたしもですけど……」
 それから恐縮したようにこちらを上目遣いで見る少女に、彼女は今度は深々と頷いた。
「お前たちはわたしの部下の不始末に巻き込まれた被害者だ。不自由はさせないよう手配する」
 昂然と告げる彼女に、少女ははあ、と煮えきらない相槌を打った。


 少女が煮え切らない態度を取ってしまったのは、さして深い理由がある訳ではない。幼くなってしまった自分たちが同時に穀潰しに変化したことに、申し訳なさを感じているだけの話だ。しかし今は下手に遠慮する方が後を引くことくらいは、彼女とてわかっていた。
 だから少女はチキュウにいた頃よく聞いた質の悪い風邪で隔離されたときの気持ちで、のんびりと現状を楽しむことにした。細々と侍女を呼び、本や食事はもとより、その時々に思いついた暇潰しのための遊具を逐一取り寄せてもらった。侍女たちも主君にしっかり言い含められているらしく、嫌な顔一つせずそれに従ってくれる。
 故にほんの少し後ろめたくはあるが、その日少女は普段の鬱憤を心おきなく晴らした。一日目からそこまで張り切る必要はないと分かっているものの、不意の休みとなるとやはり彼女も無闇に張り切ってしまうらしい。
 予想外だったのは、存分に夜更かししても構わないのに、夜になると我慢できなくなるほど瞼が重くなったことだ。どうやら体力はあっても習慣が当時の自分になかったのが原因らしい。少女は当時の生真面目な自分に複雑な気持ちを抱きながら、初日は素直にすぐさま眠ることにした。
 二日目、少女は初っ端から朝食を取ったのち再び寝台に潜ると言う贅沢をやった。再び起きた頃には昼近く、さっぱりを通り越して気だるく頭痛さえ感じたが、それさえも後ろめたい甘美と思えた。
 少女が着替えを終えて応接室に顔を出すと、昨日は向かいのソファでごろ寝をしていた少年の姿が見えないことに少し驚く。まだ寝ているのだろうと思いながら、彼女は昨日に続いて読書に勤しんだ。
 少年が応接室に現れたのは、陽も半分近く沈みかけ、月もぼんやり輝く宵の入りだった。そんな時間帯に起き上がってくると思っていなかった少女は、戸惑混じりで目を見開いた。
「ジャドウ……今、起きたんですか?」
「ああ」
「体に悪いですよ……?」
 少年の返答に、少女はため息のように呟く。それでも少年は、さして気にする風でもなく首を回す。
「知るかそんなもの。大体、貴様も今日は寝て過ごしたろうが」
「……二度寝はしましたけど、あなたほどではありません」
 小さく唇を尖らせて反論する少女に、少年ははんと笑う。何やら毒を含んだ笑みだった。
「ああ、そうだったな。昨日は夜もそこそこのうち部屋に戻ってそのまま寝入ったお前ならば、朝のうちに目覚めるだろうな」
「……はい?」
 目を瞬き首を傾げた少女は、次の瞬間、昨晩の夕食が終わった後から何をしていたのかぼんやり思い出して一気に顔を青くした。
「……あの、わたし……!」
「お前から誘ったんだろうが。昨日の勝負、続きで寝に行きおって」
 少年に仏頂面で言われて、少女はああっと呻き声を漏らして頭を抱えた。
 少年の言う通り二人は昨晩、カードゲームをしていた。運よりも駆け引きが必要な類のものであるため、ごろごろとソファで寝転がるだけの彼や、読書に僅かばかり飽きてきた少女にとっては適度に良い暇潰しであったのだが。
「……ご、ごめんなさい……」
 少女は勝負もそこそこのうちに眠気に抗えず、対戦中であることも相手の視線も忘れてうたた寝を始めたのだ。
 それを放っておくわけにもいかなくなった少年が声をかけると、少女ははっと目を覚まし――たのかに見えたが、頭は半分以上眠っているらしく、もしょもしょと何やら呟いて彼女の寝室に行った。
 放っておかれた少年は、少女は眠気覚ましに顔を洗いにでも行ったのだろうと思っていた。しかし彼女が応接室を出て一刻も経てば、その考えも変化する。
 ついに寝てしまったのかとソファから体を下ろして少女の寝室に繋がるドアノブを掴めば、ちゃっかり鍵が掛かっていた。平時の肉体なら扉の一枚程度壊せるが、今の未熟な彼の肉体ではそれも難しい。しかも要塞を兼ねた魔王城は扉一枚であっても他国の華美なだけの城より頑丈だったので、彼は今の己の無力さをある程度確認した後に諦めた。
 それでも少年は自分も寝ようとは思わなかった。その日は一日だらしなくソファでうたた寝するだけで時間を潰したからと言うわけではなく、そのため全く眠くないわけでもなく、少女の律儀さを信じていたからだ。
 恐らく仮眠だろう。あれが自分から誘った勝負事にあんな形で終わらせるはずがない。だから暫くすればお待たせしましたと謝り現れるだろう。――そう、少年は自分に言い聞かせて待ち続けた。
 しかし、少年が幾ら待てども少女は来ない。当の彼女はそんなことも忘れてぐっすり眠っているのだから当然だが、彼は壁の向こうを見る能力など持っていないのでそれを知らなかった。ただひたすら、扉の向こうからやって来る、可愛らしい対戦相手を待っていたのだ。
 そうして夜が更け、窓の外の東側にある山脈が金の光を帯び始めると、遂に少年は諦めた。何より半端な姿勢で、半端に堅く半端に狭いソファで寝るような起きているような状態で待つのは精神的にも肉体的にも辛いものがある。節々の痛みに耐えながら、そのままふらふらと自分用に宛てがわれた寝室の、滅多に使っていない寝台に布団も捲らず頭から飛び込み意識を失う。それが、少年が過ごした昨晩から今朝の出来事だった。
「…………その、本当に、ごめんなさい…………」
 全てを少年から聞かされ、少女は穴があったら入るのではないかと思うほど顔を赤く、申し訳なさそうにしながら深々と頭を下げた。しかし彼がそれで許すはずがない。少なくとも彼女はそう思っていた。だが意外なことに、彼は殊勝にゆっくり首を振る。
「謝らずとも良い。なに、俺がお前を買い被りすぎていたとわかっただけの話だ」
「…………」
「あの時間は勉強料、と言うやつだな。成る程、俺もある程度長くは生きてきたつもりだが、一晩を過ごすほどの時間を無意味に費やしたのはあれが初めてだ。……なかなかいい経験になった」
 予想していた以上の嫌味を言われ、少女は下唇を噛みながらそれを耐える。昨日のあのごろ寝は十分無意味な過ごし方でしょう、とか、それより以前にあなた休日は丸々あんな風に過ごすじゃないですか、とか色々言いたいことはあったが、反論すればこてんぱんにされるに決まっている。主に舌先だけで。
 それほどに少年は頭の回る相手でことを少女は知っているし、そんな相手との勝負をすっかり忘れた自分に憤りさえ覚えたが、全て後の祭りだ。耐えるしかあるまいと自らに言い聞かせながら、彼の嫌味を黙って聞いていた。しかし、守りの一手が通じる相手でもないのだ。
「……さて、スノー。お前はどう思う?」
 黙っているだけではいかない手を使われて、少女は思いきりため息を吐きたい気分を抑えながら顔を上げる。
「誰がどう見てもわたしが悪いと判断するでしょうし、わたしもその自覚があります」
「……ほう。ではどのような罰を受けるべきだろうな?」
 その問いに思わず片頬が引き攣ったものの、少女は敢えて笑顔で答えた。
「あなたが昨晩受けた理不尽と全く同じものなら、公平だと思いますが」
「しかし理不尽とは、理に適っていないからこそのもの。お前への罰として徹夜など、俺が受けたそれとは比較にならん」
「……まあ、そう……ですね……」
 淀みなく反論され、少女は小さく俯く。とても嫌な予感がするのだが、このまま行けば少年に巧く言いくるめられるのは目に見えていた。それはいけない。大変いけない。
「で、では……」
「であれば、現状お前が最も避けていることをすれば良い。そうすれば今後の抑止力にもなるだろう。そう思わんか?」
「思いません」
 きっぱり言った少女ではあるが、主導権は既に少年の手の内にある。意地の悪い笑みを見せる彼に、余裕の色は未だ失われていない。
「……そうさな。今晩はしっかりと『準備』しておけ。その態度如何では、お前の受ける罰が軽くなるやもしれん」
「準備って何のですか。それにわたしは……!」
 勝手に話を進められた少女の憤慨を封じるように、少年は無表情でぽつりと一言。
「……長かったぞ、あの夜は」
「…………」
「酷く長く、酷く辛い夜だった。お前への感情を試されているのかと思い、耐えに耐えようと辛抱強く待ったものだ。それが全くの無意味であるとは、空が白み始めるまでは思いもしなかった……」
 再び始まったやけに情緒たっぷりな嫌味に、少女が耐えられるはずもない。小さなうめき声を上げて、遂に降参の吐息をついた。
「……わ、わかりました。あなたの仰る通りにします……」
 それを聞いて少年は、口の端だけをにやりと歪めた。

 二人で夕食を取り終えた直後、少女はそそくさと寝室に戻り、少年の言う『準備』に取りかかった。
 何の準備であるかは具体的に示されていないが、少女は少年の性格を知っている。まず確実にそうだろうと思うものがあったので、そのための『準備』に風呂を沸かしてもらう。
 ネウガードは寒期が長く湿度の低い国であるためか、一日二日と風呂に入らずともあまり不潔を感じない。だが今日に至ってはそれではいけないと思い、少女は侍女に手伝ってもらいながら丁寧にゆっくりと自分の体を清潔にし、温めた。
 風呂から上がれば髪を乾かし、紗のスリップを身に着ける。元の体用であれば華美な下着は幾つか持っているが、今の体にも合うようなものはない。無理に身に着けても肝心な部分が隠れていないので、仕方なく少女は用意してもらった清潔なスリップを身に着けるだけにした。それから爪を軽く磨き、髪を梳いてから鏡台を見る。香水はこの肉体にはあまり似合うものでもないだろうと判断し、着けるのは止めておく。
 これで大方、少女の想定する『準備』が整った訳だが――以降がわからない。寝室で待っていればいいのか、それとも寝室を出るべきか。
 どちらにせよ肌着だけで待っているのは寒いので、綿のショールとスリッパを引っかけてから応接室に出る。しかしそこに罰を言いつけた張本人はいなかった。
 時計を見れば、少女が応接室を一度出て行ってから半刻近くが経っている。退屈になった少年が彼の寝室に篭もるか、また彼も準備を始めてもおかしくはない。そう思った少女は一応と思い少年の部屋をノックする。扉の向こうにそれらしい反応はない。ドアノブを回す。当たり前のように開いた。
 ゆっくり少年の部屋に入った少女は、月明かりを頼りに寝室にいるはずの人影を探す。しかしそれらしいものは一つたりともなく、更に風呂場も思い切って覗いてみたがやはりいない。それどころか使った痕跡さえない。
 どうしたことかと少女は一瞬戸惑ったが、閉められたままの窓の鍵を見ているうちに何となくわかってきた。つまりこれが罰なのだろう、と。
 少女が渋々少年の好きなことに付き合わされると思って覚悟していれば、相手はいつの間にか姿を消して、待ち惚けを喰らわされる。すぐさま諦めて寝てしまえばそれはもう口にするのも憚られるようなことをされるだろうし、かと言って我慢して待っていてもどうせされることは同じ。昨日の彼の心境を、嫌でも思い知らされると言うと言う寸法だ。
 少女は深く重いため息をついて、主のいない寝台に腰掛ける。よく考えたと褒めるべきか、それとも呆れるべきか。何にせよ、頭脳の無駄遣いであることは間違いない。
 兎に角、少女はのんびり待つことにした。諦めるよりは待つ方が、努力として認められるべきであるからだ。
 それからつらつら考える。こんな罰を思いつくと言うことは、少年としては少女と二人でゲームをするのはさして楽しくないのだろうかと。
 乗り気でないのは知っているが、自分にとってのそれと同じと思われると、少女は多少に複雑な気分になる。彼女にとって睦事は好きではないけれど嫌いでもなく、大っぴらに判断するのが恥ずかしいだけの話。触れ合うこと自体が嫌な訳でも、快楽を感じることが苦手な訳でもない。ただそれを貪るのがどうにも後ろめたくて、恥ずかしくて、居たたまれないから、彼ほどに貪欲になれない。
 心なしか頬が赤い気がしてきた少女は、視点を変えて冷静さを取り戻そうと試みる。――ともすれば、彼もゲーム中はそう思っていたのだろうか、と。
 好きでもないが嫌いでもなく、苦手ではないけれどどうにもこそばゆい。頭を使う遊びのくせに奇妙に和やかで、健全であることが、彼にとっては自分の性に合わないと思っているのだろうか。であれば確かに、少年のゲームと少女の交合はそれぞれ相手が好きらしいが当人としては尻込みするものとして合致する。
 導き出された結論に、少女はふうと息をつく。変な部分で息があってしまったのはよくわかったが、どう受け止めるべきか自分でも困る思考だった。
 この思考に昨晩の少年も行き着いたのだとしたら、全く彼は素晴らしく図太い神経をしている。少女は吐息と共にそう思い、ひたすら彼を待ち続けた。
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