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往けよ目指せよ彼女のもとへ(中庭編) -2:Minoritenとこの


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往けよ目指せよ彼女のもとへ(中庭編) -2

 やっぱり小説形態だと進み遅いっすねー。
 書くの楽しいけど。

 あとグェンの仕切りスキルは異常。
「そろそろいいか?」
 頬に絆創膏を貼ったレ・グェンが片手を挙げる。全員の視線が、一気に彼に集中した。
「さっきナイヅと話したんだが、この城は見ての通り、中庭からすぐに居館には行けないらしい。正門があの通り閉まってるから、細い通路を使わなきゃならん。挟み撃ちにされたら先頭としんがりだけが戦う持久戦…つまりこっちはジリ貧で終わっちまう。しかし、居館に入れば多少は安全が利くらしい…んだよな?」
 疑問系で話しかけられ、ナイヅも重い腰を上げるように立ち上がる。目立った傷はなかったが、その表情はやはり険しかった。
「ああ。見ての通り中は広いし、散り散りに逃げればまず相手も把握できない。さっき…その、ジャドウが言っていた通り、兵舎が封じられてるのなら、追っ手が来る可能性もぐんと減る。多分、俺たちを襲来したのは門衛棟に詰めてた連中だからな」
 本当に襲来したのはどちらのことか。
 誰もが皮肉めいて考えるが、その誰も明確な答えを出す気は起きなかった。ナイヅ自身もそう考えたのか、自虐的な苦笑を一瞬浮かべる。
「しかし、居館に入れば兵士の密度は減るが、それだけに見つかればまずい相手が多くいる。何せ、ここにいる執政官を始めとする補佐官たちは、全員が全員、二次大戦と七年戦争を生き抜いた元武将たちだ」
 しかも、ここに住む官吏たちは大抵が魔族。人間と違い、老いによる技量の衰えはまず期待できない。
 そこで、同じく人間ではないリーザが挙手した。
「ナイヅさん、あの二人が会いたい人物は上層部って言ってたわよね? だったら、あの中の誰かが目的と見なすのが自然じゃないかしら」
「ああ、俺が言いたいのもそのことなんだ。俺たちがなるべく敵として会いたくないその六人は、もしかしたらあの二人のことを個人的に知っているかもしれない」
「つまり?」
「危険な賭けは承知の上だが、これから先は分かれて行動すべきってことだ。こんな集団で六人全員に確認していけば日が暮れちまう」
「援軍が来ちゃう、の間違いじゃないの?」
「そうとも言うな。ま、とにかく全員お縄にかかるのがオチだ。だったら、何組かに分かれて動いた方がいいだろうってことになったんだよ」
 今度の挙手はケイだった。雇い主であるブリジッテは合いの手のように茶々を入れたが、彼女はまだ挙動に優雅さを保とうとしている。
「どのような組に分かれるのです?」
「一組はこの中庭で、外部からの援軍の相手をすることになる。何もせずに済むかもしれないが、同時に一番辛い立場になるかもしれない。なるべく、確実に相手を失神させられる奴がいい。ついでに、城に入った組の奴らの受け入れ口にもなってほしい」
 つまり、魔術を主に使う連中は立候補すべきではない、ということだ。
「もう一組は、あそこから執政官ロゼを発見するのが目的だ。ロゼはこの城のトップだから、見つけて説得できれば部下の連中に連絡を取ってもらえるかもしれない。そうすれば、他の奴らの危険性はぐんと減るし、俺たちもお咎めなしになる可能性もある。できればロゼと顔見知りの、リーザかナイヅに行ってもらいたい」
 言われて、二人は力強く頷いた。
「もう一組はあの二人を追ってほしい。女王さまに旦那の暴走を止めてもらえれば万々歳だからな。あの旦那のことを考えれば、目印はすぐに見つかるだろうし…まあなんだ、兄さんがその気満々だってことはよくわかるが」
「当たり前だろ、んなもん」
 相変わらず目つきの悪いゼロスは、情けなく花壇にへたりこんでいるものの、その瞳の輝きは凶暴性を増している。
「もう一組…いや、二組かな。そいつらはもしものときのために、退路を確保してほしい。最悪さっき言ったどの組も失敗したり捕まったとき、仕切り直す必要があるからな」
「裏道なんてどうやって探すんですか?」
「おいおい、俺たちにはナイヅ先生サマがいるんだぜ?」
 似合わないレ・グェンの猫なで声に、言われた張本人は、何とも言えない顔で肩をすくめる。持ち上げられてくすぐったいと思う以上に、気味が悪いらしい。
「俺は元帝国兵だから、一応この城の構造は知ってるんだ。改装されてる訳でもないなら、正門を使わないで城から出られるルートは二通り知っている」
「なら、その記憶を頼りに二組は退路を確保する訳ですわね?」
「そういうことだ。その危険性は未知数。中庭組とは違った博打になる」
 結局のところ、どの組にもそんな危険性はあるのだ。
 全員がそれを覚悟していたのだろう、表情に変化は見られなかった。
「じゃ、どんな役割に行きたいとかあるか? なかったらくじ引きになるぞ」
 いつの間に用意したのか、組み紐を二十本近く見せるレ・グェンの言動に、何人かは呆れたが何人かは別の反応を示した。
「オレはあの野郎を追う」
 拒否を許さぬ気迫のゼロスに、レ・グェンは癖になりつつある苦笑いを浮かべる。
「わかったから、殺そうなんてことは考えてくれるなよ。あんたら二人が喧嘩したんじゃ意味ないからな」
「そりゃあいつ次第だな」
 無責任な物言いだ。
 とにかくレ・グェンは天を仰ぎ見、どうか魔王対異界の魂とヒトゲノムの混合種などという物騒な寸劇が繰り広げられないようにと祈った。
「アタシはロゼ姉さまを説得するわ。ナイヅさんより、アタシのほうが親しいと思うから」
「そうだな。なら、俺はゼロスの引止め役になるよ」
 自分の能力を理解しているリーザがそう言えば、引き際を心得ているナイヅもそれに柔軟な対応を示す。 
「他は? 誰かいないか?」
「あたしは……」
 不意に、アデルの唇から声が漏れた。
 疲れているのか、それともレ・グェンの説明に惹かれる部分を見つけたのか、アデルは自分が何を言っているかも実感せずに言葉を紡いだ。
「あたしは、ここにいるわ。ここで、皆の背中を守りたい」
 本当は嘘だ。ただここから動きたくないだけで、援軍の可能性も特に大きく考えていなかった。
 そしてそれを指摘されれば彼女は我に返ったのかもしれないが、幸か不幸か、そんな余裕のある者など誰もいなかった。
「だったら、あたしもいるね。アデルもあたしも魔術あんまり使わないし、当身はさっきのところで嫌ってほど覚えちゃった」
 リディアもそう声を上げる。トレードマークとも言える彼女の明るい表情は、今は空元気だと一目で分かるほど衰えていた。
「オレもいる」
 短く告げたアルの表情は、更に酷かった。明らかに理由が推測できるほど、気力というものを失っていた。
 当たり前だが、彼が精神、肉体共に最も幼いのだ。この状況自体、まだ十代も始めの子どもに耐えられるものではない。勇者を目指している彼だけに、仲間の恨みだ仇討ちだ、逆賊だ謀反者だと向かってこられれば更に精神的打撃も大きかろう。それが現状本当のことならば尚更。
「…アル、ここじゃあ援軍が来るかもしれないのよ? あんたはナイヅさんか、アタシと一緒にいたほうが…」
「いい」
 短いが、はっきりとした意志を感じたその声に、リーザは珍しく何も言えなくなったように俯いた。ナイヅも同じく、沈んだ表情でリーザの肩を慰めるように叩く。
「それじゃ、立候補者枠抜いたところで、くじ引きな」
 レ・グェンが高々と見せた組み紐に、残りの全員の目がいく。まるで犬が肉をぶら下げられたように、その視線は考えることを放棄していた。
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