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往けよ目指せよ彼女のもとへ(中庭編):Minoritenとこの


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往けよ目指せよ彼女のもとへ(中庭編)

 ワルアンス城の資料がないんだぜ(´・ω・`)
 魂2自体は留年したときに売っぱらったから、資料になるのは攻略本の小さい図だけなんだぜ(´・ω・`)
 けどやっぱりそれを資料にするには無理があるんだぜ(´・ω・`)
 安価版出るらしいけどわざわざそのためだけに買い戻したくないんだぜ(´・ω・`)

 そんな感じでワルアンス城拡大図が猛烈に欲しいです。
 分厚い石造りの壁を、巨大な氷柱が三度と貫く。それだけで古い味わいを見せていた石煉瓦は瞬く間に瓦礫となり果て、無様な穴がぽっかりと空いていた。
 それだけの破壊力を見せていた氷柱は、しかし用済みとばかりに消え去っていく。その跡には溶けた水も冷気もない。魔術で生み出されたそれを一瞬のうちに造り上げ、そして一瞬のうちに掻き消した張本人は、悠然と壁の向こうから現れた。
 潤沢な魔力を隠しもせずその身に纏い、甲冑に不気味な魔界獣を宿らせたその男は、放つ冷気とは裏腹に、美しく清廉な雰囲気を持った女性を腕に抱えている。異形の悪漢と、それにさらわれた悲劇のヒロインと見紛うばかりの光景だが、彼らはまるで当たり前のように落ち着いていた。
 それどころか、一連の、まるで子どもが戯れに玩具の城を崩すかのような軽々しい破壊行為に、男の腕の中に納まっていた女性は唇を尖らせた。
「……こういうことはしないでくれませんか?」
「煙いか」
 女性の苦言を間違った方向に察した男の気遣いに、女は眉をしかめつつ首を振る。
「いいえ。あの子が暮らすお城をあなたにこれ以上壊して欲しくないと言ったんです」
「そうしたいのは山々だが、諦めろ」
 その努力もする気がないくせに――と女性は内心呟くが、それを敏感に感じ取るような甲斐性が男にあるはずがない。周辺を見回し目標の波動の位置を確認すると、ため息を一つ漏らして呆れたような顔をした。
「それにしても無駄が多い…。どんな人間が建てたのか、これほど分かりやすい城もそうないな。虚栄心が先立つ割には、侵略者が城主に対し、敬意を払わせる気はないらしい」
 それが男の、人間への悪態の序曲となるのは女性にはよく分かっていたことなので、なるべく自然に先手を打つ。
「わたしたちの生きていた時代とは違いますから。権力の象徴として建てるだけの時間と金銭の余裕があった、ということでしょう」
「そんなものに励んでいる人間どもに叛乱を企てんとは、魔族も随分と穏やかになったものだ」
 矛先がそちらに行くとは思わなかった女性は、自分の先読み不足に軽く反省する。もともと男は過度の人間排他主義なだけであり、魔族であればどんな者でも受け入れる人物ではないのだ。
「人間も魔族も過激になるよりはいいと思いますよ?」
「確かにそうでなければ外交制圧など成功するはずもない。否、結局そこからクーデターが起こったのだから奴の制圧方法は失敗と見るべきか?」
「あの子の陰口はやめてください」
 普段よりも幾分か険のある女性の言葉に、男は小さく肩をすくめる。
 そこまで過敏に反応するくらいなら、もう少し自分に素直になればいいものを。結局のところこの女性は、私情を最後に回すのが既に癖になっているらしい。
「…だからこそ、俺がこうして苦労して先んじているのだろうが」
 独り言のつもりで呟いたところで、抱えているため顔が近いことと、女性の能力をもってすれば、それは単なる女性に対する苦情に過ぎない。
 事実、女性はその優しげな容姿とは反した、感情のない声で返答する。
「あなたにお願いしたつもりはありません」
「お前の行動などどうでもいい。ただ俺が下手な自己完結に塗れたままの女など抱きたくないだけだ」
「………」
 身も蓋もない男の言い草に、女性は一瞬目を見開いたが、それも暫くして細められた。――相変わらずの器用貧乏ぶりは、呆れもするが愛しさもある。こんな侵略まがいのことをする男の行動は、いまだに許せそうにないが。
 遠くから兵士たちの声と鎧の擦れる音が聞こえてきた。先ほどまで見た雑兵の甲冑とはまた違う、つまり近衛兵である可能性が高まってきたことになる。
「スノー」
「はい」
 掴まっておけ、とまで言わない男に、女性は意味を汲み取って、男の首にしっかりと腕を回す。
 冬の嵐のような急襲は、侵入者を迎え撃とうと熱意と義務に燃える近衛兵をどのように蹂躙したのかは言うまでもない。


 目標がもともと明確であった彼らとは違い、それに巻き込まれた側の混乱は見るも無残な有様だった。
 城門から続く中庭を見渡せるはずの回廊には、いまだ冷気を放ち続けるオブジェのような巨大な氷柱が邪魔をしている。その周囲には、痛みに唸り声を上げる兵士、当身を喰らい力なく倒れ込む従者や侍女、氷柱に飲まれた彫刻のような人々と、さながら大戦時代に戻ったような光景が広がっている。
 それを行ったのが旅の仲間であり、また自分であることを思い知らされると、アデルは首筋に嫌な怖気を感じた。
 自分はこんなことをするために剣を振るってきたはずではないのに、復讐より更に重い犯罪に――こんなことをせざる終えない状況に立っているのか。
 しかし、そんなことを気にしている余裕など、アデル以外の仲間たちにはないらしい。いつもより鋭い表情のレ・グェンが周囲を見回し、敵の有無を確認していた。
「もう、敵はいないか?」
「現時点ではおりませぬが、援軍が到着するのは時間の問題かと…」
 早口でカルラがそういうと、イサクも返り血を浴びた槍を振り払う。
「今のうちに中庭に移動しましょう。こちらより少しは休めるはずです」
 皆は何も言わず、しかし速やかに中庭のほうへと駆けていった。誰一人声を発せず、薄汚れた格好で中庭を目指す。まるで本当に賊のように。

 暗い門を通り抜けた先にある中庭は、身近に見ると美しかった。
 自分の行いが恥ずかしくなるほど戦いに無縁で、整っていて、堂々としていて、本来ならこの光景に感嘆の声をあげるであろう自分の喉は、全速力で走った影響で、ひゅうひゅうと鳴っていた。
 けれどそれもすぐにいつものリズムに戻り、それどころか後ろを走ってきた少女を気遣う余裕さえ生まれている。
「アリア、大丈夫?」
「…あっ、はい、なんとか…」
 けれどその表情は、お世辞にも明るいとは言えなかった。何せアリアは魔術師で、その存在意義を現在失っているのだ。自分が今更役立たずになるとは思っていなかっただけに、その衝撃は大きいらしい。
 もっとも、麻痺させる魔術はあっても気絶させる魔術などないのだから、彼ら魔術師たちにできることは限られているのだが。
「アデルさん、そこ…!」
「え?」
 アリアの視線の先を見てみると、太股にざっくりと入った傷が見えた。まだ新しい鮮血が流れ、彼女のブーツに赤い網目模様を描いている。とは言っても、他の部分が無傷かと言われればそうではない。アリアどころか、仲間全員が傷だらけだった。
 ここまで傷が多いのは、兵士たちを相手に加減して戦わねばならなかったのが原因だ。レ・グェンが彼らに依頼したときは時間稼ぎが主な目的であったし、ここまで兵士は多くなったので何とかなったが、今回は規模、環境、目的、何より相手の気迫が違う。
 突然襲いかかったことになる一行に、共和国の兵は純粋な敵意と仲間への仇討ちを篭めて向かってきた。今までのアデルの斬ってきた相手とは違い、自分たちを道徳的に敵だと見なし向かってきたのだ。そんな相手に遠慮なく迎え討てるほど、彼女は大人ではなかった。
 この傷をつけたのもきっとそんな兵士の一人なのだろうと思うと、胸の奥が痛んだ。今まで清廉潔白に生きてきた彼女にとって、ごまかせないくらいの罪悪感が襲いかかる。
「…アデルさん? もう、グラスはなくなっちゃったんですけど…」
「いいのよアリア。包帯でなんとかするから」
 包帯を使って肘の血を止血しているリディアを盗み見ると、彼女も明るさは消えてきた。ただアデルの持つ狼狽さはなく、現実だけを見据えろと自分に言い聞かせているような、厳しい表情に見える。
 他の皆も似たような表情だった。休んでいるはずなのに、そこに漂う空気はやけに鋭くて、緊張感が漂っていた。
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