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むすめ誕生日おめでとん:Minoritenとこの


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むすめ誕生日おめでとん

 なつやすみの宿題提出がどうも無理そうなので小ネタでお茶濁すよ!
 いつか吐き出したロゼ子がGOC新生シンバ帝国軍将軍ルート妄想でも良かったんだけど。

 ロゼ子誕生日なのに泣かせてごめんね。
 普段と大差なく執務室に入った瞬間、紅を練りこんだ明るい金色の薔薇が視界を覆って、ロゼは思わず奇妙な声が出た。
「おめでとうございます、ロゼ様」
「お誕生日おめでとうございます」
 一斉に聞こえてくる馴染みのある声に、ああ今年はここで待ち受けていたのかと、この事態を飲み込む。
 侍女たちから花束を貰い受けると、普段は凛々しい表情を保ち続けた皇帝も、この時ばかりはくすぐったそうな笑みを浮かべた。
「……ありがとう、皆。綺麗な薔薇ね、嬉しいわ」
 皇帝への急襲に満足したらしいくすくす笑いが、あちらこちらから聞こえてくる。いたずらっぽい笑みを宿しながら、しかし主君の手前無礼な対応はすまいと心に決めているらしいリーダー格の侍女が、誇らしげに胸を張った。
「今年から売り出した新種なんだそうです。ロゼ様の御髪の色と同じで皆、一目で気に入って。今年の贈り物はこれにしようってすぐに決まりましたわ」
「そうなの。毎年凝ったものを凝ったタイミングで贈ってくるから、今年は油断してたわ」
 去年は晩餐のデザートの時間に彼女の顔を描いたケーキを贈られ、一昨年は起きた瞬間におめでとうコール。それ以前もこちらの油断した時に誕生日の贈り物を持ってくる侍女たちの悪戯心に、彼女は毎年振り回されっぱなしだった。――尤も、そんな気持ちになることに居心地の良さを感じているからこそ、振り回されている部分もあるのだが。
 そんな彼女の気持ちを汲んで、宰相も女官長もこの日ばかりは侍女たちの行動に口を挟まずにいてくれる。そのためか、侍女たちは彼女の誕生日になると、普段の慎ましい態度を忘れたように溌剌とした表情で喋り続けた。
「今年は直球がテーマだったんです」
「変化球ばかりじゃ、ロゼ様も慣れちゃいますからね」
「バイアード様にもご相談したんですけど、いまいちいい案くれなくて……」
「あの方、やっぱりお金持ちだから。お年の数だけの宝石なんて私たちには無理よねぇ」
「それって陛下のお年を私たちに聞けってことでしょ? 失礼にもほどがあるわ」
「繊細の対極におわす方だもの、女心を汲むなんてできっこないわよ」
「エティエルさまも大変よねえ……」
 次第に話題が脱線していくことを気にも留めず、また主役の存在をすっかり忘れるようにして、侍女たちのお喋りは続いていく。
 さすがにそうなると見ない振りをしていられないと思ったのか、ぬるりと魔力の塊のような影が彼女に近付いてきた。
「アシュレイ」
 その名前を聞いて、慌てて侍女たちは花束を持った主君のほうを向く。あのやたら威圧感のある鎧姿と不気味な声と底なし沼のような魔力は、いかに彼女たちの愛する皇帝の第一の家臣とは言え苦手だ。
 そんな相手に怒られるのは真っ平御免とばかりに、侍女たちはしゃんと背筋を伸ばしてもう一度声を合わせる。
「ロゼ様、お誕生日おめでとうございます!」
「……はい、ありがとう」
 苦笑交じりの返事を聞くと、侍女たちは捕まりたくないと言わんばかりに散っていった。先ほどまでのお喋りをなかったことにしたいのが、一連の行動でよく分かった。
 しかし、アシュレイもそれに乗せられるほど優しい性格ではない。的確にリーダー格の侍女の前に立つと、敢えてその肩に触れて逃亡を阻止する。
「っ!」
 一瞬だけ侍女の表情が恐怖に強張るが、執務中に泣いては宮廷勤めの侍女の名折れだ。下唇を噛んで恐る恐るアシュレイを見るも、彼は相手の反応を気にしない素振りで話した。
「陛下の誕生日に贈り物をするのは忠誠心の表れだ。非常に結構。だが、君は物忘れが激しいらしい」
「……は、はい?」
 声を裏返らせながらも自分に視線を合わせる侍女は、本当に気付いていないらしいと知り、アシュレイは静かに吐息をつく。
「陛下に花束を持たせたまま執務に付かせるつもりかね、君は」
「はっ? あ、し、失礼しました!」
 ぺこんと頭を下げて壷を取りに行く侍女の翻るスカートを見ながら、ロゼはアシュレイと視線を合わせる。
 肩をすくめる彼に、思わず苦笑を浮かべた。それを指摘してくれた感謝の気持ちと、侍女苛めをしてしまう彼の意地悪さに。


 活けてもらった花を見ながら、彼女の普段通りの生活が始まる。とは言っても、今朝の件があったので、普段よりは心なしか筆が軽く、表情も柔らかい。
 その姿を見ると、アシュレイは軽い罪悪感を覚えてしまう。彼女の誕生日に働かせてしまう自分と、彼女に休みを与えられないほど余裕のないネバーランド皇国という国に。
「……君は現状に満足なのか」
 不意に質問されて、ロゼは目を丸くする。それから視線をやや斜め上にして考えると、何のことを聞かれているのか分かったらしく、軽い笑みを浮かべた。
「満足よ。このくらいの楽しみのほうが、むしろ有り難いわ」
「そうかな」
 彼とて盛大なパーティーを毎年催すつもりはない。それでも、誕生日くらいは仕事を忘れて彼女の好きに使わせてやる程度のことはさせてやりたかった。今年の豊作が分かる秋口という季節柄、そんなスケジュール調整は毎年難しくなってしまうからこそ現状が続いているのだが。
 しかし、彼女はそんな相棒の心遣いよりも気になるものがあるらしい。笑みを打ち消して頷いた。
「そうよ。祝祭日にでもしてしまえば、領主たちがこぞって便乗して祝うでしょ。わたしの誕生日がごく一部の問題児の無礼講に使われるなんて真っ平」
「なるほど」
 彼女の指摘に納得してしまうのがまた何とも言えない。実際にここ最近、皇国領土内で好き勝手をする領主やそれに等しい立場の者が多くなりつつある。正確に言えば、化けの皮が剥がれてきつつあるのだろう。
 ようやく先月、ルネージュ公国で異界の魂を召喚し続けた新興宗教の上層部を処理したばかりなのだ。あれはまだ氷山の一角なのだろうと思うと、無礼講さえ許したくない気持ちはわからなくはない。
「しかし、寂しさもあるだろう。身内に祝ってもらえないのは」
 珍しく情が厚い発言をするアシュレイに、彼女はらしくないと笑いを浮かべる。
「気にしないわよ。それに、あなた自称身内でしょう。あなたが祝えばそうじゃなくなるわ」
「私より、祝って欲しい相手がいるだろう」
「もう死んだわ」
 あっさりと告げる彼女に、アシュレイは知らず深く長い吐息をついた。ここまでこの自分が揺さぶってもあの点に触れないのだから、やはり彼女は頑固だ。――父親譲りか、否母親もなかなかに頑固だったと、いつの誰の記憶なのかも分からないままに思う。
 もしかすると彼女の気持ちが影響しているのかもしれない。彼もまた浮かれているのか、はたまた自棄になっているのかもしれない。彼としてはごく珍しく、軽い口調で普段言わないようなことを言った。
「もし――の話だが、君の両親が健在だとする」
 急に何の話かと、ロゼが頭を上げる。そんな話を彼がするなんて思いもしなかったし、するような性格ではないと思っていた。
 もしかすると、案外そんなロマンチックな性格なのかもしれない。とするとここに来て新しい彼の一面が発見できたわけだ、とぼんやり考える。自分はこの話題を誤魔化したいことをと自覚しながら。
 しかしそんな彼女の思考も気にせず、アシュレイは言葉を続けた。
「君は私の存在から察するとおり、高位魔族の片親を持ちながら、一方で人の血を引く。しかし案ずるがいい。あの人は、否あの人たちは、君を種族差別から守る力を持つ」
「そう」
 特に興味がないように、彼女は相槌を打った。
 本気でそんな言葉を信じるつもりはない。だったら何故自分は捨てられたのだと思わずにはいられないからだし、アシュレイは秘密主義者だ。素顔とその正体を知っているのがいまだに自分だけなのだから、両親の話も鵜呑みに出来ない。
「君は貧しい暮らしに苦労することもなく、両親と周囲からの愛情を受け育っただろう。その際に私がいるかどうかは分からない。それでも、君と君の周囲は私の存在が何であるかを知った上で受け入れていたことだろう」
「……なに、今朝怖がられたこと、根に持っているの?」
 彼女の茶化す声にも揺るがず、アシュレイは淡々と続ける。彼の素顔を覆い隠す兜と同じくらいに無機質で空虚な声で。
「そうして君は、あのときの年齢の時点で、誰の不満も受けないほどの立場と力を手にする。両親は君が望むなら支援するし、また独り立ちをしたいのなら喜んで送り出すだろう」
「ふぅん」
 どこまでも無反応を貫くロゼを、アシュレイは同じく彼女の反応を気にしないように続けた。彼女が無反応でいる理由も、また何に反応するのかも、熟知しているからこその余裕を持って。
「そうしてあのときと同じように戦乱に巻き込まれた君が挙兵したとしても――エミリアは死ななかっただろう。少なくとも、君の人生が彼女の死で始まるようなことにはならなかった」
「…………」
 アシュレイの読み通り。ロゼは、押し黙ることで彼の言葉に反応してしまった。
 しかしそれは駆け引きの始まりに過ぎない。勝つか負けるかはむしろこれからのタイミングと言葉次第だと、アシュレイは彼女の次の反応が見えるまでに畳み掛ける。
「そうして君はこの大陸の完全な支配者になっていたかもしれない。反乱が起きるとしても今より小規模に、どこの馬の骨とも知らぬ小娘と罵られることもなく。また君の心が幾多の戒めを受けることもなかったかもしれない。そうなれば、恐らく君は」
 ロゼが椅子から立ち上がる。それを見ながら、アシュレイは続けた。
「少なくとも、赤の他人にしかその生誕を祝福されないような事態には、ならなかったはずだ」
「あの子達の気持ちを侮辱しないで」
 開口一番それなのか、とアシュレイはやや意外な気分になった。同時に、やはりどこまでも彼女は――。
「お行儀がいいな、ロゼ。やはり生まれながらの優等生だよ、君は」
「わたしを挑発してどうするつもり、アシュレイ。喧嘩を売りたいのなら、そんな方法は次から遠慮したいのだけれど」
 アシュレイを睨む彼女の目つきは、既に抜き身の刀剣に等しい。それともその瞳の色も相まって、人を刺した後の刀剣と言ったほうがいいだろうかと彼は能天気にも思う。
 けれど彼は自分の態度を改めるつもりはなかった。
「遠くの親戚より近くの他人、というやつかね。その諺は否定しないが、私は君の本性を知っている。君が無関心を貫き通そうとしているのが何よりの証拠だ」
「思い上がりも甚だしいわね」
 らしくなく吐き捨てるように笑うロゼにも、アシュレイは動じない。
「そう思いたいのなら思えばいい。君が否定すればするほど、君は意識してしまうのだから、結局は私の言葉通りになるのだよ」
「……意外と口が回るじゃない、アシュレイ。あなたに交渉事は無理だと思ったのに、今度から負担してもらおうかしら」
 負け惜しみにも等しいロゼの言葉に、こんなときだけだよ、とアシュレイはそれを辞退する。
 そうして彼はこのままやんわりと説得を続けていっても誤魔化される段階にまで入ったのだと分かると、単刀直入に攻める方法に切り替えた。
「今の不幸に甘えるのは結構だが、それは向上心のなさとも言える。ないもの強請りでもないのだ、今ならまだ間に合う」
「どういう意味」
「君が両親と会いたいのなら、私はそれを叶えることができる」
 彼が予想していた通りに、ロゼはその発言に目を見張る。戸惑いと、嫌悪感をない混ぜにした表情で。
 そんな顔をする理由も分かっている彼は、当然ながら説得を止めるつもりはない。淡々とした声がこの時ばかりは功を奏し、彼女の視線と心を揺れ動かし始めた。
「君はまだ各地の領主たちから信頼と尊敬を集め切れていない。それは君自身の努力の問題ではなく、彼らの性質の問題だ。彼らが気にするのは君の実力ではなく、君の経歴であり君の生まれだ。正確に言えば彼らは君の生まれという弱点に難癖をつけて君を見下している。しかし今、君が両親と言うカードを切れば、彼らは混乱するだろう。そして認めざるえない。君の実力は血と天賦の才によるものであり、家柄という後ろ盾もなしにここまで伸し上がってきた君こそが、この大陸を治めるに相応しい人物であると」
「そんなに、上手く行く筈がないわ」
 一気にまくし立てたアシュレイと、視線を合わせないようにロゼは笑う。
 多くの地域の領主が、まだ自分を信頼していないことは確かだった。そのため各地で災害が起きても皇国からの救援は断られがちで、大陸をまとめているはずなのに各地の顔色を伺うような状態であることも本当だ。
 貴族を呼んで宴の類をなるべく行わないのは、彼らの表面上は媚びへつらうような態度に対し、自分が見えていないところでは悪口三昧の現実に酷く落ち込んだことが原因なのも、彼は知っている。
 今更家族に対して執着があるわけではない。これは彼女は本心だと思っているし、またそんな気持ちがあったとしても表に出すほどの感情ではないと思う。だけれども、彼の誘惑は今の彼女には魅力的に感じた。
「行くとも。君が思い上がるはずがない。君は両親の正体でさえも有効に利用できる人物だと、私が保証する」
「利用……?」
 小競り合いを止めない貴族や領主たちを一括できる力、危険因子かと思われる臣下が襟元を正し改めて自らに忠誠を誓ってくれる能力。そんなものが即座に手に入れば自分は、寂しくなくなるのだろうか。
「そう、利用だ。君は甘える相手など必要ない。それでいい。ただ新しい切り札を使うだけだ。卑怯と言うものがおれば言わせておけばいい。今、この大陸の頂点に立った君には、そんなもの後から見せる札なのだから、彼らの不満は理由ではなく、負け惜しみに変わる。体裁を気にする奴等が、負け惜しみなど長く言えるはずがない」
 だから彼らは、忠誠を誓わざるえなくなる。自分の陰口を言っていた者は言っていた者だけ、その部分が急に解消されてしまうのだから混乱し、従うしかない状態になるだろう。それは魅力的だ。内政で手一杯の自分にとっては、とてもとても。
 ああそういえばその両親とやらは、高貴な人たちなのだから、自分の負担も軽くしてくれるのだろうか。自分が生まれたばかりの頃はまだ戦時中のはずだ。きっと治安維持対策や街の発展に力を注ぐ手配など、教えずとも理解できるはずだ。嫌味ったらしい連中の相手も容易いはず。そうすればきっと、エミリアのような――。
「……だめ」
 留まった。
 ロゼの掠れた否定の言葉に、先ほどまでは流暢だったアシュレイの説得がぴたりと止まる。
 また押し戻されないように、ロゼは焦ってもつれる舌を必死に動かした。
「だめよ。もし、わたしの両親を呼んだとしても、分かったとして、彼らはきっとまた別の難癖をつけてくる。堂々巡りだわ」
「しかし……」
「今更両親が分かったところで、今度はこう言われる。『いい年にもなって両親に泣きついたとは、あの女も底が知れている』『生まれ育ちの差は縮まらないとお気づきになったらしい』……旧時代の階級社会を、わたしが肯定しては意味がない」
 アシュレイが再び何か言いかける気がして、ロゼは更に焦りながら続ける。自分でも驚くほど、余裕の欠片もない声で。
「わたしは、自分の努力を、無に帰したくない……。今まで出した犠牲を、忘れたくないの……!」
 その声が、彼の耳にどう届いたのか。
 長い沈黙の後に、アシュレイは細く長いため息を吐いて彼女に近付いてきた。
 思わず後ずさるロゼをまるで見なかったように、書類机の上に置かれた時計をちらと見て、振り返りこう告げた。
「随分と中断してしまったな。少し、急ごうか」
 彼女はその言葉を聞いて、深く長く息を吐く。そのまま何も言わず、倒れるように椅子の中に転がり込んだ。




 その夜、彼女は夢を見た。
 幼い自分が、誰かに祝われている夢。
 目の前には沢山のプレゼントとご馳走。お姫様みたいな服を着せられ、何人かの拍手が聞こえてくる。おめでとう、おめでとうと祝福の言葉を受けて、自分は照れくさそうにありがとうとお礼をする。
 細く白い指の誰かが自分に近付いてきて、自分の額をそっと撫でてキスをする。
「お誕生日おめでとう、ロゼ」
 優しくのびやかな女性の声に、彼女は誰の声なのか分かってとても嬉しくなる。
「ありがとう、おかあさま!」
 自分の声はあまりにも無邪気で、母への愛に溢れていて、無性に目の前の相手に甘えたくなるから、思わず本当に抱きしめてしまう。柔らかくて雨期の夜に香る花のように甘くて、うっとりするような匂いが胸いっぱいに広がる。
「まあ。大きくなったのに甘えん坊ね、ロゼは」
 母は笑ってそんな自分の急な行動を受け入れてくれ、自分もまた受け入れてくれる母にくすぐったい気持ちになる。
「あまえんぼうだもん。ずっとずーっと、ロゼがまんぞくするまであまえるの。だってきょうは、ロゼのおたんじょうびなんだよ」
 母の笑い声が聞こえてくる。周囲も皆笑っている。否、一人だけ滅多に笑わない男がいたか。
「あう」
 自分の襟首を摘んで、母から強引に自分を引き剥がしたその男は、まるで鮮血のような色の瞳をしていた。
「調子に乗るな、ガキが」
「ふんふん。とーさましっと」
 からかう自分に、父の柳眉がぴくりと反応する。それに対して母は呆れた声を出した。
「もう、――――。今日はロゼの誕生日なんですから、調子に乗ってもいいんです」
「そんな理由で甘やかすな。癖がつくと面倒だ」
「ロゼ、いつももいいこにしてるの! とーさまみたいなわるいこじゃないの!」
 怒る自分に、誰かが笑った。そりゃあ子って柄でもないよな、と女性の声が聞こえてくる。父が苛立ちを露わにそちらを見る。
 再びの楽しそうな笑い声。誰が笑っているのか、全く判断が付かないけれど、誰も彼もが自分と両親を受け入れてくれていて、その裏で陰口を叩いているなんて微塵も思えない。
 そう思うと今が切なくて寂しくてどうしようもなくて、彼女は気がつけば泣いていた。
 こんな夢を見たのはアシュレイのせいだと彼を恨んだ。けれどすぐにどうしてアシュレイの誘いを振り払ったのだろうと後悔さえ生まれてきた。ああ、けれど――この道を選んでしまった以上は。
 鼻をぐすぐす言わせながら、彼女は火照った瞼に指を押し当てる。
 羨望はある。けれど、今の誇りも責任も捨てられない。ならば今の道を進むしかない。
 自分が両親に頼る時があるとすれば、本当に自分に何もなくなったそのときしかない。そのときだけしか、頼ってはいけない。
 そのときへの希望とも言える覚悟を胸のうちに決めて、ロゼは大きく吐息をつく。再び眠りの世界に入り込んでも、あんな夢なんて二度と見たくないと心の底から思いながら。
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