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セレストタルト:Minoritenとこの


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セレストタルト

 オチ投げっぱなして言うな!
 定番のオチって言うな!

※現代パロ+いつかのちびぜっちゃんですお気をつけて。

 おざなりになりますがロゼ子さん誕生日おめでとうございます。我ながらギリギリすぐる…。
「ああああああああっっっつぅううううう!!!」
 家に着くと、靴を脱いで自分の部屋に入って箪笥を開けて下着を掴んで洗面所に行く。
 いや本当に今日も暑かった。日傘とタオルを忘れて地獄を見た。九月に入れば帽子一つでも何とかなるだろうと思っていた自分が甘かった。あとサークルの顔出しが早く終わって良かった。……良かった? 多分良かった。
「もうロゼ、脱ぎっぱなし開きっぱなしは止めなさいって言ってるでしょう」
 怒った母さまの声が聞こえてきても、正直こっちはそれにこだわっていられるような気分じゃない。帰ってくるまでの道のりで、頭が茹だりそうだ。汗でぐっしょりの全身が、水風呂か熱いシャワーを求めて半自動的に動いている。
「ごめん母さま、後にして!」
「後にしてって、あなたもう……」
 ブラジャーを洗濯ネットに入れてから洗濯機に放り込むと、そのまま風呂場のガラス戸を開ける。そこに先客がいた。
「えー?」
 父でもない。母でもない。当然ながら弟でもない。黒髪の、ほそっこい男の子だ。
「……うお!?」
 男の子はゆっくりこちらに振り返り私と目が合うと、軽く椅子から飛び上がる。そんなに怖いか、私は。
「……悪いけど、ちょっとシャワー貸して」
 しかしそれさえもどうでもよくなって、私は洗い場を占領する男の子に断りを入れると、彼の後ろからシャワーヘッドを取って軽く体の汗を洗い流した。髪を洗うのは夕方にしておこう。でないとまたドライヤーで汗を掻く。ああけど、顔は今洗っておきたい。
「……ふはあ」
 顔にも心地よい温水を掛けてると、じゅうと音がしそうなほど火照った頬が次第に熱を放出していくのがわかる。それも落ち着いてくると、ヘッドの位置を肩や背中に戻しながら首を振って瞼を開ける。鏡の前には、もの凄く居辛そうな男の子がいた。
「……ん?」
 男の子? 風呂場に?
「ちょっと、ロゼ! あなたどうしてもうお風呂入っちゃってるの!」
 母さまが慌てた様子でガラス戸を開ける。そこそこに広いはずの風呂場が、何故か三人いるだけで妙に狭く感じた。
 母さまが戸まで開ける理由なんて余程の理由があるのだろう。まあ、事実、あるにはある。て言うか。
「あー…………」
 私は何も言わず、と言うか何も言えず、ゆっくり母さまのいる洗面所に戻ると男の子に声をかけた。
「……その、ごめんね。お邪魔しちゃって?」
「……いい」
 ぶっきらぼうと言うか、もう怯えてるんじゃなかろうかと思えるような声の返事を聞くと、私は母さまにバスタオルを掛けられながらしゃがみ込む。
 私の二十歳の誕生日。
 知らない男の子に初めて裸を見せた日にもなった。


「こちら、私とジャドウの娘でロゼ。双子の姉でね、弟にアシュレイがいるんだけれど、今はまだ帰ってきてないの」
 食卓の向こうに座った男の子は、母さまの紹介を受けても、こちらを一瞥もしようとしない。そりゃあ急に風呂場に見知らぬ女が乱入されたら怯えるだろうが、その反応をあれから三十分近く経った今でも貫かれるとこっちも割と傷付く。
「この子はゼロス。あるヒトゲノムさんの息子さんだけど、ネギ様からの御依頼で、私が一般常識を教えることになりました」
「ああ……。そう言えばそんな話も聞いたような、聞いてないような……」
 八月中に、よその子を昼間預かることになったから驚かさないようにとか言われたような気がする。結果的にわたしは、驚かせるどころか怖がらせたようなものだが。
「ごめんね、……えーと、ゼロス君? わたし、あんまりにも暑かったから……」
「いい」
 弱々しくもしっかりと声に出して首を振られるが、視線は思い切りわたしを避けている。多少苛つきはしたが、元はと言えば自業自得だ。子ども相手に喧嘩腰の嫌味は止めよう。
「じゃあ、お昼頂きましょうか」
 母さまも下手にフォローをするより自然に振る舞う道を選んだらしく、明るい表情で具沢山の冷や麦を前に手を合わせる。
「頂きます」
「頂きます」
 わたしと同じタイミングで、意外にも男の子――ゼロス、だったか――がはっきりと挨拶する。その後の白和えのがっつきぶりからして、挨拶はきちんとするよう母さまから口酸っぱく言われているのだろう。
 だが箸の持ち方がいかにも慣れていない。まあわたしもお世話になった矯正用の箸を使っているし、何せ母さまが教える以上はどれだけ時間が掛かっても完璧に使えるようになるだろう。
 悪い子ではないこと、ならないことを祈りつつ、わたしも箸を取って冷や麦を口に含む。具の一部である鶏ハムと胡瓜は中華海月と和えて欲しかったが、こう言う食べ方も美味しいので文句は言うまい。
「そう言えばロゼ。貰ったプレゼントの中に生菓子はないの?」
 母さまからの注意に、一瞬噎せそうになる。しかし今ざっと思い出した限りでは、それっぽいのはないはずだ。
「……だい、じょうぶ。まだ暑いもん、作る人いないし」
「そう。高校のときと比べてミーハーな感じものが減ってるといいわね?」
 母さまは去年一昨年にわたしがそんなことを言ったのをしっかり覚えているらしい。微妙に据わりが悪い気分になりながら、軽く手を振る。
「今年は、無難な贈り物ばっかりよ……? さすがに高校時代みたいな装飾品とか服とかケーキは、ねえ……」
 言葉に出してみると、我ながら高校時代は天狗になっていたんだなあと思う節がなくもない。言い訳をすると、やっぱりあの時代までは閉鎖的と言うか、井の中の蛙だと実感していない部分があるんじゃなかろうか。
「……ぷれぜんとって、何だ」
 たどたどしい疑問の声に、新鮮味を感じながらそっちを向くと、もう冷や麦を半分近く平らげたらしいきょとんとしたゼロスの姿があった。わたしの視線には気付いていないらしく、母さまのほうに顔ごと向けている。
「贈り物とも言うの。あげる人にとっては、相手が喜んでくれるといいなと思いながら選ぶもの。貰う人にとっては、大抵は嬉しいものね。具体的に中身は決まってないわ」
「なんでそんなもん、こいつ、貰うんだ」
 ちらとこっちを見ながら尋ねるゼロスに、母さまは少し強めに言う。
「こいつじゃなくて、ロゼって名前があるの。そう呼んでくれない?」
「……こいつ」
 しかしどうもゼロスは私の名前を言う気がないらしい。そこまで怖がるかと顔に出さないまでも傷付く私に、母さまがそっと耳元で囁いた。
「ごめんなさいね、ロゼ。この子、何度言っても親族以外は名前で呼べないらしくて……」
 なんだそれ。将来的に見てかなりコミュニケーションに難のある癖だが、矯正出来るんだろうか。
「なあに、照れ?」
「かもしれないけど……それよりも人見知りが激しいのかしらね」
 はあ、と母さまが大きく吐息をつく。そこまで母さまが苦労すると言うことは、かなり手強い癖なのだろう。それに少し可虐心が芽生えた私は、不信そうな顔をしているゼロスに、母さまに代わって答えてやった。
「それはね、ゼロス。今日がわたしの誕生日だから」
「……たん?」
 竦みながらも目をぱちくりとさせる器用なゼロスに、そう来ると思ったわたしが更に畳みかける。
「生まれた日のことよ。わたしが生まれたことを感謝してくれる人や、わたしがここまで育ったことに喜んでくれている人たちが、おめでとうってお祝いしてくれる日なの。あなたの場合もそう」
 ヒトゲノムに誕生日を祝う概念があるのかどうかはわからないけれど、一応最後の言葉を付け足しておいた方が理解しやすいんじゃないかと思ったのだが、逆効果だったらしい。ゼロスは目を瞬いて、大きく首を捻った。
「……そんな日、おれ、知らない」
 ああやっぱり。
 だがこっちもそう言う人が身近にいるので、実は大した問題じゃない。
「まあねえ、これって寿命が短い人間の習慣だもの。大丈夫よ、父もだけど、魔族はあなたみたいに誕生日がわからない人多いから」
 わたしの気軽な物言いに安心したらしく、少しだけゼロスの肩の強ばりが解れたような気がした。
「けど自分が今いくつかはしっかり覚えておいた方がいいわよ? お酒とか煙草とか賭博場とか免許取得は年齢証明が必要になるからね」
 おいおいわかるだろう常識なのに、ゼロスはまるで生まれて初めて聞いたことのように深々と頷いた。母さまの言う通り、本当にこの年になるまで何も知らずに教えられずにいたのか。
「……あまりそう言うことは教えないで欲しいんだけど」
 ってこっちか。確かに母さまはその手の嗜好や娯楽にいい印象を持っていないが。
「母さまが避けてても父さまや伯母さま辺りが吹き込みそうな気がするし……。いいんじゃない?」
 大体ゼロスのこの目つきで、悪いこととは無縁に生きるのは難しい気がする。母さまの努力の甲斐あって健全な生活を送っていても、この顔つきや態度が改善しそうな予感は全くないし、悪い遊びの誘惑も多かろう。となればそれらへの耐性や正しい知識も必要だ。
「そうかもしれないけれど……」
「ごちそうさまでした」
 ゼロスは自分の教育方針なぞ全く興味がないらしく、ぺろりと残りの冷や麦を平らげて手を合わせる。いんげんの胡麻和えも白和えも、一粒たりとも残っていない。
「綺麗に平らげたわねえ……。いつもこうなの?」
 母さまに尋ねたつもりだったのだが、立ち上がり器を洗い場に持っていこうとするゼロスがこくりと頷いた。
「ここんちの飯は、食べやすい」
 なんとも不思議な言い回しに、わたしは思わず吹き出してしまう。
「食べやすい、なんて湾曲した表現使わないの。母さまの作ってくれたものはね、『美味しい』って言うのよ」
「あのねえ、ロゼ……?」
 呆れた母さまの視線が少し痛いが、無視してこっちをじいっと見たままのゼロスにもう一つの言葉を教えてあげる。
「男言葉なら『美味い』かしら。そっちの方がゼロスにも言い易いかもね?」
 わたしの判断は正しいようで、ゼロスはややもしっかりと頷くと元気よく一言。
「うまい」
「そうそう」
 わたしも満足して頷くと、調子を良くしたのか律儀なのか、ゼロスが母さまにも向かってもう一声。
「うまい」
「ふふ、どう致しまして」
 母さまからふんわり微笑まれるも、全く気にしない顔でゼロスは力強く頷いて洗い場に向かう。母さま相手にあの態度とか割と凄いと思うんだけど、だったらわたしのあのときにああも怯えなくても良かったんじゃないかと思わなくもない。
「あのくらいだと、色気より食い気なのかしらねー」
「当然でしょ。色気を出す年頃なら、まずあのひとが警戒して家に入れないもの」
 それもそうか。暖簾の奥から聞こえてくる、拙いなりにゼロスが食器を洗う物音を背景に、わたしと母さまは昼食を再開した。

「なあ」
 わたしと母さまの食器をシンクに運ぶと、台に乗ったゼロスの物足りなさそうな視線と声を受けた。なあ、の後にもう一声欲しかったところだが、母さまの躾でも頑ななこの子に、今日初対面のわたしが無理強いはちょっと厚かましい気がしてくるので折れてやる。
「なに、どうかした?」
「飯のあと、もう一つ、出ないのか?」
 わかりにくい言い回しだが、頭を捻るとそれっぽいものが見えないこともない。もしかして、それは、きっと――
「ああ、デザートのこと?」
「たぶん」
 その割には深々と頷いているのが気になるが、予感はするので後ろで食後のお茶を淹れている母さまに聞いてみる。
「母さまー、ゼロスがデザートは? って聞いてるんだけど」
「ああ、今日はちょっと夜のために取ってるのよ」
「夜?」
 どう言うことだと言いたげにゼロスも振り返る。その表情は切迫したように見えて、そんなにデザートが待ち遠しかったのかと思うとちょっと申し訳ない。
「ええ。タルトがあるにはあるんだけど、うちの子たちの誕生日祝い用だから、今日は……」
 事情を聞いて、ゼロスの強い視線がわたしの横顔に無遠慮なほど突き刺さってくる。これは何か、わたしの大人としての懐の深さが試されているのか。
「…………わかった」
 けれどわたしが口を開くより先に、ゼロスが呟くように頷いた。
「がまんする」
 なんか、胸が痛い。嗚呼けど、タルトはわたしも楽しみにしていた訳だし、大体あれは。
「……あのな」
 ついと、裾が引っ張られた気がしてそちらを向く。引っ張る相手はゼロスに決まっているのだが。
「た……ん、なんとか、かんとか」
「誕生日」
「たんじょうび」
 うん、と確認するようにわたしとゼロスがほぼ同時に頷く。今日中で何度頷いてるんだろうか、この子。
「おめでとう」
 ぎこちない、と言うか似合わないなりに誠実さと言うか、子どもならではの必死さを感じる言葉に、わたしの鉄面皮は泡沫の如く消え失せた。
「……母さま、この子にタルト、一切れでいいからあげてくれない?」
「え?」
「いやほら、わたしこの子怖がらせちゃったから、そのお詫びに……」


「それで」
「それで? 今まで二人で食べてきたタルトを君の判断で他の誰かにやった、と?」
 アシュレイの発言には棘を感じなくもない。けれどきっと気のせいだろうなあ、と思いたいわたしの希望をぶち破るようにして、こいつめ鼻で笑いやがった。
「君は裸を見られた立場だろう。その上でタルトをやるなんてどれだけ人が良いんだ」
「見られたって言っても、相手はまだ色気のいの字も知らないような子よ? 見知らぬ女が我が物顔で侵入したってだけでも怖がるでしょう」
 昼間、ゼロスにあげた分の残り――と言うには大量だが――のタルトをフォークで切り取り口に運ぶと、無花果の甘酸っぱくてぷちぷちした食感とまろやかなカスタードクリームの甘みが渾然一体となってたまらない。
「だからと言って君が下手に出る必要はないだろう。……母さまも僕らのために作ってくれたはずなのに、思いつきで他人にやるよう指示するなんて。どうせ君の頼みなら渋々聞いたんだろうけど、本心ではどう思っているだろうね」
 これでアシュレイの嫌味さえなければ優雅な誕生日の夜のはずなのに、眼前の弟は憎らしいほど器用にフォークでタルトと一切れずつ食べつつ、わたしの爪に鑢をかける。これはわたしたち姉弟の日課ではあるけれど、同時にアシュレイがわたしを逃がさないようにするための戒めでもある。
「いいじゃない別に……。大体タルト五号サイズよ? 一人分くらいどうってことないでしょ」
「だからいつも三日くらいかけて二人で食べるじゃないか。それも忘れたのかい」
「忘れてない。けど今日のは無花果メインのタルトな訳でしょう? 長く日を置くと汚くなるし、美味しくなくなるじゃない」
「だからと言って他人にやるのはどうかと思うね」
 またそれに戻るのか。うんざりした顔を隠しもしないわたしを見て、アシュレイも同じようにうんざりした顔を作る。
「反省していないようだね。実に残念だよ」
「こっちも残念よ。飢えた子どもに出来る範囲で施しただけでそこまで弟に責められるだなんて」
 売り言葉に買い言葉な部分は確かにあるが、個人的には割と本気でそう思っていたりもする。そりゃあ、切り分けてもらった当初も残念だなあと言うか、母さまにもアシュレイにも悪いと思う気持ちはあったが、そこまでこてんぱんに言われるようなことはしたつもりはない。
「今まで僕ら二人で食べてきた訳だからね。それは当然だよ」
 しかしこいつは反省の色なんぞ一つたりとも浮かべる気がないらしい。むしろわたしを見下すような態度が異様に憎らしくなってきたので、二人でちみちみと食べていたタルトを皿ごと掻っ払う。
「それじゃあこれからは二人で食べないようにすればいいんでしょ。もう二十歳なんだからそのくらいのことはしなくちゃね?」
「……ロゼ」
 わたしの態度を完全に自棄を起こしていると見ているのが更に腹立たしくなって、大皿を持ったまま立ち上がると襖を足で開けて母さまたちの部屋に向かう。
「……待て、ロゼ! どこに……」
「母さま、ついでに父さま! ちょっといい?」
 返事も聞かずに両親の部屋の襖を開ける。何をしてようと皿にあるタルトを一切れでも食べてもらえばそれで済むんだからと思っていたんだけども。それは間違いだったって言うか。そもそも時間が間違っていたって言うか。
「……………………」
「ロゼ?」
 背後から、戸惑い気味のアシュレイの声を聞いて我に帰ると、開けたときと同じくそっと足で襖を閉める。
「明日」
「うん?」
「明日、食べてもらうから!」
 わたしはこのとき、自分がどんな顔をしているのかなんてまったく考えてもいなかったんだけれど、アシュレイはそれで反論する気はなくなったらしい。雨に濡れた仔犬を見るような憐憫の目を向けられると、そっと背中を支えられた。
 わたしは支えられたままの足で冷蔵庫に向かい、タルトを直すとそのまま歯も磨かずに寝た。これくらい許される日のはずだ、多分。もう二十歳になったんだから。大人になったんだから。裸を見られたんだから。
 だからこのくらい、あんな光景くらい平気なはずだ。……多分。きっと。まあ、今ちょっと泣きそうなわけだけど……。
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