い゛ーんい゛んい゛んい゛ーん…
…い゛ーんい゛んい゛んい゛ーん…
ロゼ「……あのさ、皆にちょっと訊きたいんだけど」
アンクロワイヤー「うん?」
エティエル「何でしょう」
ロゼ「親に昔の話、詳しく聞いたことある?」
イフ「……ないな」家が暗くなるし
エティエル「ううん、小学校からの宿題とかでは聞きましたね。
けどあまり、興味がないと言うか……」
アンクロワイヤー「私もそうだな。
……どうした、バイアード」
バイアード「…………興味はある。
訊く勇気はない」
ロゼ「同志!」
ガシッ!(握手)
イフ「…………」ああ…
アンクロワイヤー「そう、なのか?
少し意外だな」
バイアード「バッカお前!
予想外過ぎる一面持ってたりする親とか怖いだろ!」
ロゼ「よねー」
アンクロワイヤー「変にって……例えば、どんなことだ?」
バイアード「あー……、まあ例えば、俺の家は親父がいない」
イフ「っつってもお前んちはでかいし古いだろ。
そこにお付きもいるし」
エティエル「…………」
バイアード「そうだな。
だからお袋が働いてなくても、祖父様やら先祖やらの遺産で俺と妹は大した苦労もせず生きていけたんだろうと思ってたんだが……。
どうもな、それとはまた別に違うことが気になってさ」
イフ「はん?」
バイアード「……うちに、年に一度か二度、人間のおっさんが来るんだよ。
金髪で、スーツびしっと着て、なんつーか一昔前の映画に出てた紳士役みたいなおっさんが、薔薇の花束持ってさ」
アンクロワイヤー「……花束?
と言うことは、君のお母上の……」
バイアード「いやいや。
俺もガキの頃、怖くなって聞いてみたんだがさ、笑って違うって言われて……まあ、そこは安心したんだよ。
俺も妹も人間の血は入ってないしな?
けどお袋の昔っからの知り合いには違いないらしくて、まあちらちら遠巻きに話を聞いたりはしたんだが……」
イフ「それで大体わかるだろ」
バイアード「一向に、わからん!」
アンクロワイヤー「……うん?
えと、それじゃあ、エティエルはその人物にいて……」
エティエル「……私も実は、あまり……。
奥様の昔からのお友だち、ではあるらしいんですが……」
バイアード「そのおっさんにとって、お袋は命の恩人らしいんだわ。
まあ、命の恩人ならいい……って言うか、それだけならまだいい!」
イフ「……何だ、それだけって」
バイアード「……おっさんがさ、お袋との昔話中によく言うんだよ。
『壇上に立つ貴女はまるで女神のようだった!』
『あのような演説を耳にして心打たれぬ者は、恐らくもう心臓が動いていない者しかおるまい!』とかさ。
…………ん? って、思うだろ?」
アンクロワイヤー「えん、ぜつ?」
イフ「……その手の、活動家だったのかお前の母親」
バイアード「それはない! まずない!
そりゃお袋が若い頃の時代的は結構物騒だったが、お仲間みたいな連中は見たことなかったし!
大体お袋がその手の連中、客観的に見てた節あるし!」
イフ「わからんだろう。
大体、若気の至りとして捉えてない可能性もある」
アンクロワイヤー「エティエルも、その辺りのことはわからないのか?」
エティエル「……母から聞かされた感じでは、そんな風ではなかったみたいです。
ただ詳しくは聞いてないんですけど、メイミー様は良く決断なさった、とか、頑張られた、とか……」
イフ「……じゃあ、違うのか」
バイアード「だろ~?
けどさー、お袋が何やってたのかはあんまりよくわかってないんだよな~。
……なんつーか……さあ、軽く聞いてみて無茶苦茶重かったらどうする俺!? みたいな感じが、な」
アンクロワイヤー「直接聞けないとなると、日記……はいくら家族でも読めないしな……。
書斎とかはあるんじゃないか?」
バイアード「あるにはあるけど、ガキに仕事用のモンとか触らせないようにしてんだろ。
つーか鍵持ってんのお袋だからまず無理」
エティエル「……時期が来れば、自ずとわかるとは思いますけどね」
バイアード「まーなー……それを願いたいもんだ……」
ロゼ「……て言うかわたし、まだ詳しい話が聞けるチャンスなんてあるのかな、と思うけどね。
何度も機会あったのに逃しちゃたかもーって」
バイアード「俺も俺も!
ロゼ、同志!」
パァン!(ハイタッチ)
アンクロワイヤー「そう言えば、君も両親の過去について尻込みしているんだったか」
ロゼ「……うん、まあ、ネー」
エティエル「けどロゼのお父様は社長さんですし、交友関係が広いのは仕方ないと思いますよ?」
ロゼ「いや、ウチ親族経営だからそんな……。
……わたしもバイアードと同じ、母さまがちょっと謎でねー」
イフ「社長夫人なら仕方ないだろ」
ロゼ「父さまは母さまに対しては過保護だから、仕事上の付き添いとかは絶対させないのよ。
……けど母さま個人に、用がある人がいて」
バイアード「おっ、俺んとこと同じだな!」
ロゼ「うん、けど、その人はもうそこそこおじいさんでね……。
けどバイアードのところの恩人って感じでもないの。
お中元もお歳暮も直接あちらさんから持ってきたり、話すときもがっちがちの敬語だったり、玄関から先上がろうとしなかったり……」
エティエル「……では、その方にとってはロゼのお母様が目上の方、になるんですか?」
ロゼ「なん、だと思うんだけど……。
けど、わたしからさらっと母さまに聞いてみたりしてもね、昔の知人とかそんなことしか言わないのよ!
父さまに聞いてもあからさまに不機嫌な顔で『あいつか』とか『ほっとけ』とかだしさ!」
イフ「……知人だとしても、じいさんがロゼの母親くらい若い人間に敬語っておかしくないか」
ロゼ「おかしいわよね!?
おかしいでしょう!?
けど教えてくれないのよ……」
アンクロワイヤー「君も知らないなら、アシュレイも知らなそうだしな」
ロゼ「うん、知らないって……。
母さまはわたしたち産んでからずっと専業主婦って言うのは知ってるんだけど、それ以前に何してたのかは全く知らされてなくて……。
なーんか、もやもやする感じ」
イフ「ならちゃんと調べればいいだろ。
それともそっちも無理なのか」
ロゼ「う~ん……。
バイアードのところと違って、両親が明確に隠したがってるしねえ……。
親族にしたって似たようなものだし……」
バイアード「そのじいさん本人には聞いてみたのか?」
ロゼ「……いや、なんかわたしのことも敬われすぎて、微妙に緊張しちゃって。
それに母さま個人に会いに来るから、そのおじいさんが来たらまず母さまもいるし。
もうちょっと物怖じしない昔だったら聞けたかもなんだけどねー……」
バイアード「わかるわかる。
ガキん頃なら聞けてたんだよな、多分。
けどガキは知らないおっさん本人に興味あるから親との関係とかどうでもいいってなって」
ロゼ「そうそうそう!
……何してたんでしょうね、わたしらの母さま」
エティエル「……いつかは、わかるといいですね」
~ン年後~
バイアード「……そんな風に思っていた頃が、僕にもありました」←大手会社から独立を果たして今また大手会社の傘下に入った某商社社長
ロゼ「やめて言わないで」←その大手会社社長
PR