アデルの両親が亡くなったと知らされたとき、教官室であたしたちは出逢った。
アデルを慰めるようにして仲良くなったあたしには、いつもアデルにとって両親のことが思い出されるのかもしれない。
だから、あたしは多分、アデルの傷を完全に癒せもしないし、慰めもできないし、吹っ切ることもできないのだ。そういう意味じゃ、あたしはアデルにとって両親の死亡の何よりの証。だからあたしが、彼女を助けたくなるのは、本当は間違ってるのかもしれない。
けど、それで納得するほど、人間て上手くできてるわけじゃないし?
そういうわけで、あたしがアデルに真剣になればなるにつれ、同時に彼女の心を深く傷つけてきた。多分、の話だけど。かもしれないな、とは思っている。だけど、身を引くよりも、あたしには押しかけるほうが得意だったから、そっちにいっちゃったのだ。
だからアデルが学園から急にいなくなったと知ったとき、あたしはまず、あたしから逃げちゃったのかも、なんてことを考えた。
その答えはまだ出てないけど、久々に会ったアデルの、こざっぱりした顔ったら!
やっぱりあたしのせいじゃん? と思いながら、結局あたしとアデルたちは合流することに決まった。
アデルの仲間のリーダーは、アデルの両親の仇だった。
うわなにそれ、っていうのがあたしの率直な感想。
アデルは、彼が本当にしたのかどうか見極める、両親の命が彼にとってどんなものだったのか知りたい、なんてことを言ってたけど、本当のところは違うだろう。
あたしから逃げたかったのと、単にそのリーダーに惚れてるんだ。
惚れてるってのは言いすぎかもしれない。けど、興味は持ってると思う。もともと頭の堅い真面目な子だったから、両親健在のときですら異性に興味がなかったって噂は聞いてる。
それなのに、憎らしくて仕方ないはずの親の仇と一緒にいて、小言言ってる現状なんて、明らかに異常だ。
だから、アデルは両親の仇を傘に、あの目つきの悪い彼の内面を探ろうとしている。それはつまり、彼を知りたいってこと。恋する乙女と、動機はともあれ姿勢は同じ。
もしくは、救いを求めているのかもしれないな、とも思う。
彼にとっての両親の命の重みを知れば救われるんじゃなくて。
彼自身に、両親のことでさえ、過ぎたことなんだと思わされたいのかもしれない。
けどそれはどうなんだろう、と薄情なあたしでさえ思っちゃうから、多分アデルはその考えを否定する。両親の仇討ちという大義名分を得て世間を知ろうとする彼女に、それを肯定させるのは本当に酷な話だし。
けど。
どう考えても今のアデルは、両親の影を引きずってるようには見えない。
それはつまり、もう吹っ切ってるってことだ。吹っ切ってるのに、動機のために、アデルは両親の仇を盾に、彼に近付こうとする。
普通の人なら傲慢だなあ、と呆れられるかもしれない。けどあたしはアデルの親友だから、その不器用さが愛らしくもある。ついでに嫉妬する。当然、復讐しか頭になかったアデルを解き放ってしまった彼に。
けど、彼は同時にアデルの両親の仇だ。
アデルは、自分の大義名分を、ぶちまけないことには進めない。親との繋がりを、恋で忘れちゃう訳にはいかないから。
そんな義理堅いアデルを、彼はどう受け止めるんだろう。
願わくば、あたしが満足するくらい、痛い思いをしてほしいなあ。
親友のあたしがアデルの重荷になるんなら、仇のゼロスがアデルを救っても、おかしくはないんだろうけど。
それでもやっぱり、あたしの嫉妬と満足がない交ぜになった気持ちは、納まりそうにないから。
PR