忍者ブログ

[PR]:Minoritenとこの

往けよ目指せよ彼女のもとへ(側塔編)-3:Minoritenとこの


[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

往けよ目指せよ彼女のもとへ(側塔編)-3

 アポカリプスは一応買う予定なのにまだOPムービー見てません。
 つーか、目的がそれぞれバラバラの連中が軍ってどうなん?
 しかもスパイとか仇とか色々それぞれ目標違いすぎてるし、君主がアビスフィアーの復活を掲げて、その旗印に普通の人間が集まるってどういう話の流れにするつもりなのか全然検討もつかないんですが。
 少なくともそんな集まりは「軍」どころか「パーティー」でもないと思うんだが……。
 窓のない石畳の長い回廊は、時間の感覚が狂うほどに長い。それでも何とか退屈せずに済むのは、この回廊がギャラリーを兼ねているからだろう。
 だがこの城が建てられた時代が時代だけに、飾られている芸術品や武具はどれもこれも古臭く厳しく、時代遅れの感が強い。物珍しいのは最初のうちだけで、一瞥すれば飽きてくるような、ありきたりでインパクトしか求めていないようなものばかりが並べられていた。しかしないよりはましだと、リーザは思いながら仲間たちの様子をちらりと見る。
 ケイはこの回廊の品々に、既に芸術的価値を見出していないらしい。前を向いたまま、黙々と歩き続けているが、時折後ろを向いて遅れているあとの二人を待つ余裕は持っている。
 シオラは芸術品には専ら興味はないようだ。しかし埃臭い芸術品の中でたまに目を惹く、一歩間違えれば拷問器具かと思うような、大きな棘や針だらけの、敵に無残な傷跡を残すであろう刃先を持つ武器を、おっかなびっくり眺めることは間々あった。それを使いたいと思うのではなく、怖いもの見たさに近い感覚らしいが。
 そして問題は、やはりと言うべきかゼレナだった。
 常闇の冥界を文字通り母体として産まれたヒトゲノムである彼女は、今まで芸術品など一度も目に触れる機会がなかったらしい。絵画一枚彫像一体ごとに、飽きもせずきゃあきゃあと騒いだり感嘆の声と共に立ち止まったりで彼女たちの足取りを牛歩にしている。
 リーザは最初のうちこそ見慣れない芸術品にそこまで盛り上がるゼレナを微笑ましく思っていたし、今もあんな流行遅れの品々で感動するくらいなら、自分のお気に入りの作品を見せるとどうなるだろうと思っていたりもする。しかし、さすがにこの調子でこの回廊を抜けると夜になる。芸術鑑賞を楽しんでいるゼレナには憚られるが、腹をくくって彼女に近付いていき――
「あぁ……ん」
 聞こえてきた雌の声に、リーザは先ほどまでの同情が混じった感情を一瞬にして打ち消した。
 こんな色っぽい声と熱っぽい視線を注ぐ態度が普通の芸術鑑賞の訳がない。
「ゼレナ、もう少し急いでくれない?」
 反射的に文句を口に出してしまい、そのあまりの刺々しさにリーザは内心舌を打った。
「えー……なにぃ?」
 幸か不幸か、ゼレナの反応は上の空。咳払いと深呼吸を一つして、リーザは落ち着くよう自分に言い聞かせながら微笑んだ。
「もう少し急ぎましょう? アタシたちが急がないと、イサクを含めてほかの皆が危険な目に遭うわ」
「んー……」
 イサクに語感を強めるが、ゼレナは曖昧な生返事をするだけだった。――本人の前ではあんなに熱烈に振る舞っておいて、実際のところはどうでもいい存在だったのだろうか。それが本性でも納得できてしまうのが悲しい。
「天使様、ねえ……うふふふふふ……」
 不気味な笑い声に、ケイとシオラも足を止めてゼレナのほうを振り返る。隣にいるリーザでさえ、その笑い声の唐突さに目を剥いた。
「天使様がこんな格好してたら……あたし、困っちゃぁう……」
 そしてぱっと顔を上げたゼレナの表情は、まさしく恍惚そのもの。甘さで胸焼けしそうなお菓子が具現化したような声で、はにかみながらそう呟く。
 唐突過ぎる言葉に目を丸くするリーザたちのことは全く見えていない様子で、ゼレナは更に自らの空想を口にする。
「あぁ……、けどけど、普段の服装に文句があるわけじゃないのよ? ただ、やっぱり、露出がないのは寂しいなーとか、ああんけど他のヤツラに天使様のカラダ見せちゃうのもイヤだしぃー……」
「………………ああ、そういうこと」
 そこで、ようやくリーザはゼレナが一体どうして時代遅れの芸術品に興奮するのかが、ようやく分かった。
 単純に、ゼレナはイサクにこの絵画や彫刻によく登場してくる男たちのように、肌も露わに戦う姿――それだけに限定されたものではないだろうが――が見たいらしい。それを空想、否妄想の中で実現してはしゃいでいた、といったところか。
 そう納得すると、リーザは急に疲れた。まだロゼとの交渉も終えていないのに、どうしてこんなに仲間内だけでこんなに体力を使わねばならないのか。
 ゼレナが反発するのは承知の上で、リーザはゼレナの背中に回り込んで先のほうに押す。
「ひゃっ!? ちょっと、何すんのよ!」
 もちろん、頭の中で高露出のイサクと蜂蜜よりも甘い蜜月を過ごしていたゼレナには、リーザの行動は快くない。しかし、リーザには彼女の気持ちより重大な使命を背負っている。
「はいはい、とっとと歩く。さっきも言ったでしょ、アタシたちが先に行ってロゼ姉さまを説得しなきゃイサクたちが危ないって」
「むうううう……!」
 ゼレナも、現実のイサクを持ち出されては強く反抗する気が起きないらしい。面白くなさそうに口をへの字に曲げている。
「まあまあ、これが無事に終わったら、のんびりできるんだしさー」
「今も充分のんびりしているかと思いますが……」
 ケイの指摘は尤もな話で、彼女たちは、七年戦争時、上層部しか利用していなかったらしい隠し通路を使用している。
 その隠し通路を教えてくれたナイヅに詳しい話を聞けば、彼の上官である将に教えてもらい、一、二度だけしか使っていないとのこと。
 やはりそれは間違いではないらしく、最初こそいつ兵士たちとかち合うか警戒していたものの、今まで彼女たちはこの隠し通路に入って以降、全く兵士を見ていない。外部からの物音が全く聞こえてこない点からして、こちらの声も外部に聞こえない造りになっているのだろう。
 だからこそ、彼女たちは城内の最奥に侵入するというよりも、芸術鑑賞の気軽さでこれまで来れた。
「だったら今のままでもいいじゃないのよー。どうせあたしたちはこの役目が終わったら退屈になるだけじゃなーい」
 だからと言って、今の足取りが遅くなってもいい、という話にならない。しかし、義務だの役目だのの話を持ち込めば、きっとゼレナは更にやる気をなくすだろう。そんな話は、イサクが口に出してしか効力を発揮しない。
「そんなことないわよ。その後は、……まあ条件が良ければ解放してもらえるでしょうし、そうなればイサクのもとにだって行けるわよ」
「ほんと!?」
 顔を明るくするゼレナに、リーザは微笑み念を押す。
「ええ、ロゼ姉さまはそんなに頭の堅い人じゃないもの。大丈夫よ」
 しかしその傍に仕える鎧の軍師はそうはいかないだろう――とリーザが確信していることなど露知らず、ゼレナはやる気を出した様子で羽を広げる。
「うっふっふー。それじゃあ、ちょっと急いじゃおうか……」
「とっ、飛ぶのはダメよ!?」
 本格的に羽ばたこうとする蝙蝠のような黒い羽に、リーザは慌てて声をかける。出鼻を挫かれた思いで、ゼレナがリーザのほうを向いた。
「どーしてよー。早く行ったほうがいいんでしょー?」
「極端すぎるのよあなたは……」
 疲れた調子でリーザが言えば、それまで彼女たちのやり取りを静観していたケイが普段と変わらぬ口調で意見する。
「あなたが一早くこの先の回廊を抜けたとしても、目的の場所がわかりますか?」
「あ」
「そして、このメンバーで最も重大な役割を持つのは、執政官ロゼと顔見知りであるリーザ嬢です。ゼレナさんが行ったところで、上手く説得できるとは思えません」
「けど、それだったらあたしの力で……」
「主が洗脳されたと知り、部下たちが私たちを敵視しない可能性は? 平時の執政官ロゼの命令が部下たちに有効だからこそ、私たちは彼女を説得するのです」
 冷静な口調の説得に、ゼレナの意欲は再び下がった。と言うよりも、あくまで徒歩で行くしかないことが面倒に感じているらしい。
「……ああもう、わかったわよ! あんたたちにおとなしーく着いていけばいいんでしょ!」
 投げやりだが、ゼレナにそう宣言させたことには変わりない。ケイは進行方向のほうに再び歩き出す。
「……いや、ほんと助かったわ」
「うん……すごいすごい」
 リーザが疲れ果てたように囁き、シオラがゼレナに聞こえないように小さな拍手をケイに送る。が、彼女にとってはあの程度のわがままは日常茶飯事。感謝の言葉も拍手も軽く手を上げて受け流し、ゼレナのほうを見る。
 ゼレナは面白くなさそうな顔で彼女たちに着いて来ており、それを見てケイもようやく安心したように前を向いた。
 あのヒトゲノムの少女がここに来てまでマイペースな理由は、わからないでもない。この回廊は彼女たちの緊張感も殺気も削ぎ落とし、普段通りの自分にさせている。敵地にいる自覚さえ失わせる空間は、長らく不法侵入を経験したケイにとっては厄介な場所と言えた。
 こんな状況で急襲に遭えば、リーザたちはただちに混乱に追い込まれるだろう。せめてこの回廊が終わるまで何事もなければ、緊張感を取り戻せる良い区切りになるのだが。
 果たしてそうはいかず――彼女たちの平穏は、やはり脆く呆気なかった。

 回廊の七部は通過したところで、シオラの足が止まった。
 それまでケイもリーザも、シオラが足を止めるのは下手物めいた武器の前だとわかっていたから通り過ぎるはずが、彼女たちも思わず足を止めてシオラが見ている武器を見返した。
「うわあ……」
「これはまた……」
 リーザとケイが呟いてしまうほど、その槍はある意味でこの空間から浮いていた。
 そこに立て掛けられていたハルバードは、穂先から突起に到るまで金色に輝き、随所に銀の唐草模様が彫金されていた。斧の部分は天使が羽を広げるモチーフが彫られており、柄の天使もカメオ製で、その下には幾つもの宝石が埋め込まれている。
 一見すれば豪奢で美しい槍と見て取れるが、見れば見るほどなんとも分かりやすい「すごさ」を詰め込んだ装飾用の槍だった。機能美はもとより、洗練の欠片もない。
「すっごいねー。これ、どれくらいのもんなの?」
 自分にこの槍の価値を聞いているのだと知り、ケイが首を傾げる。
「さあ……完全な装飾用のようですが、あまり派手すぎるのでどんな部屋に飾ってもあまり馴染まないでしょうし……需要はないですね。造りもよく見ると荒っぽいですし」
 羽の形に彫られた斧頭を見ると、確かに所々切り口に失敗し、それを鉛で埋めて隠したような見苦しい痕跡がある。カメオもよく見ればあまり洗練された顔立ちとは言えないし、宝石と思ったものも宝石特有の深い輝きのない、それらしくカッテングした単なる硝子球だった。
「恐らく、戦争中にどこかの貴族から押収した品でしょう。売っても二束三文……」
「やだっ、なにそれ!」
 嫌な予感がして三人が振り向くと、予想通りゼレナが目を輝かせてケイたちが見ていた槍をしっかりと目で捕捉していた。
 しかし、ケイたちとの違いは一つ。彼女たちが好奇心半分呆れ半分で見ていたものを、ゼレナは確実にそのハルバードが美しいものとして見ている。
 それでもよく見ればその誤解も解けるだろうと思い、リーザは一歩下がってゼレナに位置を譲る。飛びつくようにリーザの開けた隙間に入り込んだゼレナは、だがその瞳に宿る爛々とした輝きをますます強めてハルバードに食い入った。
「へえー……なんかカッコよくない?」
「単なる装飾用の槍ですよ。威力は期待できませんし、よく見れば三流品です」
 ぴしゃりとケイが言い切るが、ゼレナは全く聞いていないのか熱心にハルバードを眺めて、大胆にも柄を握る。
「ちょっと、何してるのよ!」
 驚くリーザたちに、ゼレナは屈託なく答える。
「天使様のお土産にするのよ。価値がないんなら、なくなっても別にいいでしょ?」
「だめだよ! 一応お城に飾ってあるもんなんだからさ、そんなの見つかったら泥棒扱いされるってば!」
 だから元に戻すように――とシオラが言いかけたそのとき、がしゃん、と大きな音が聞こえた。
「……ん?」
「なに、何の音?」
 リーザとケイがいつでも武器を取り出せるように身構えるが、次に起こった出来事はそんなことでは回避できなかった。
「へっ」
 急に、床がなくなった。
 あの頑丈で移動させようにも随分と長く盛大な物音が聞こえてきそうなはずの石畳のなのに、まるでもとからなかったかのように完全に消失している。
「ぇえええー!」
 驚愕で叫ぶしかない彼女たちは、仲間の中で唯一翼を持つゼレナの姿を落下しながらも探したが、そのゼレナもあまりの急な出来事にあの悪趣味な槍をしっかり持ったままの体勢で落ちている。翼も使わずに。
 それでもゼレナが我に帰り羽を使ったところで、彼女たちの落下を食い止められるはずがなかった。
 何故なら抜けた床と一階分下のそことは、充分な高さがあるわけでもないし、そして何より問題なのは、武装した兵士たちが何人かちらほら見える現実があったからだ。
PR

Comment

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事のトラックバックURL:

プラグイン

カレンダー

06 2024/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

リンク

カテゴリー

バーコード

ブログ内検索

アーカイブ